第三幕


地球に存在する生命は連鎖だ。
何かの種族が消えたら他の種族も崩れて消えていく、でも新しい種族が穴を埋める。草食動物と肉食動物、巨大な魚とコバンザメ、人間とカミサマ。括りが違うって?いや、実はそんなに変わらないんだよ?そっちが知らないだけでさ。

命は連鎖だよ、一人が死んでまた一人死んで、それを食い止めたとしても、根底いる奴を倒したとしても、一時的にでも消えた事実を変えたわけじゃないから崩れた所に綻びがあるんだよ。



人間は原因を知りやしないが裏側にいる連中は遠の昔に標的を決めていた。それを炙り出す為に必要なのは計画をひっくり返す事、やらねばならないのは先生も少女とバケツ頭も同じである。ただ彼等は平行線を辿り協力はしないだろう、利用はするが…

悲鳴を上げながら少年が悪夢を駆け抜けていく。死にたくない、まだ生きていたい、何も伝えていない、ありきたりな人間としての感情を抱えてたままぐちゃぐちゃの頭で逃走を選択した彼を一体誰が責められるだろうか?むしろ、一歩でも踏み出した事を褒められるべきだろう。まあ、死んだが。

ぶつ切れの文章、曖昧な言葉、段落は空き、まるで陳腐なポエムでも書いている気分だ。

自動販売機の前に転がりでた少年がバケツ頭におずおずと、しかし希望をにじませて声をかける
「あ、あの!すみません!」
声をかけてからやっとバケツ頭の顔を見た彼はその顔をすぐに強張らせてしまったけど。
「あ!やっと来たな!待ちくたびれちゃったよ!」
「ええっと...」
プンプンと口で言う目の前の人ではないものにどんな反応をすればいいか、怯えればいいのか、逃げればいいのか、助かったと笑えばいいのか、平凡な彼にはわからなかった。
「いやー!そろそろ僕のセンパイがくるからそれまでちょっと待っててねー!!そしたらちゃーんと帰してあげられるから!」
バンザイ!と手を上げて彼なりにちっぽけな少年、佐藤を励まそうとする
「か、帰れるの!?」
「えっ、もっちろん帰れるけど???あ、帰りたくないの?」
「帰りたいよ!!すっごく帰りたい!!」
「あーん、うるさーい」
おちゃらけて、ふざけながらも楽しそうにバケツ頭は笑う。生きたままの佐藤くんを見つけた、それもセンパイよりも先生とかいうろくでもない生物もどきよりも早く!これは今夜久々にセンパイによくやったなと褒められるのでは?といった期待を抱えながら
「そうだ、僕の名前はバケツ!よろしくね!」
思い出しなようにバケツ頭のバケツがした自己紹介に対して、何故か佐藤少年は疑わしそうな目をしていたが…

 「おい、何騒いんでんだ。」
ハスキー、と世間で言われるような少女の声が聞こえる。それに対して二人は慌てたように顔をそちらに向けた
「あ、おわりんセンパーイ!おっそーい!」
「うっせぇな黙れ」
半袖のセーラー服、狼を思わせるような瞳をもった少女がどこか忌々しそうに、どこか安堵したように立っている。彼女、終はその視線を佐藤少年似合わせるとすぐにバケツの方へ一瞥をくれるとこう、呟いた
「...とっとと行くぞ」
彼女のその言葉を待っていたとばかりにバケツは返事をし佐藤を振り返る
「はーい!じゃ、君もね」
「おい、お前。絶対に喋るんじゃねぇぞ。」
釘を指すように鋭い少女の声、佐藤は慌てたように首を縦に降る。喋らぬように、音を立てぬように
「よし、物分りの良いやつは嫌いじゃねぇ」
佐藤の事をあの目で見つめた『概念体』は満足そうに頷いた。

 ホームを抜けて改札へと向かう、古く錆びついた駅には改札機械すらく、伽藍堂の空間に僅かな彩りのように貼られた古いポスターと支える柱、佐藤少年もバケツも終も何も言葉を発さずに外へと抜けた。

 生ぬるい風とどんよりとした雲、僅かに除く雲の隙間からは夜の空しか見えない。田んぼのあぜ道をこわごわと進む佐藤の心中にははやく帰りたいという言葉が浮かび続けている。

その時だったグチャリグチャリと、泥の中で足踏みをするような音が佐藤少年の耳に届いた。
グチャ、グチャ、グチャリグチャリ、グチャリ
佐藤少年は恐る恐る、こんな状態でも抑えられない好奇心と無謀さから音のする方、田んぼの真ん中へと目を凝らした。

その人型は突然、不躾にも向けられた視線に気がつく。その視線に追いつかねばとゆっくりと顔を上げた

 「走るぞ!」
「!!」
「あいあいさー!」
突然、終が佐藤の腕を掴み思い切り走り出す。あまりに一瞬の事に足が縺れて転びそうになる、というかほぼ引きずられているような体制で必死に歯を食いしばりながら佐藤は目を白黒させていた。
混乱する彼を横目に目を合わせてしまったモノに舌打ちをかます、あとわずかの距離を忌々しいとばかりに佐藤少年を投げ飛ばし現実へと叩き落とす
「!?!」
混乱する顔を尻目に
バン、と終は追跡者に弾丸を撃ち込んだ。
「くそが、だから人間のガキの子守なんざ向かねえんだよ」
「でも、センパイナイス判断でしたね!!あのままだったコイツにあの人間食べられちゃってたし!!ヒュー!流石センパイ!」
「うるせえ…お前も今日はよくやったな。次もその調子で余計なことすんなよ」
待ちわびたその言葉にしっぽを降る犬のようにバケツは
「はーい!」
といいこのお返事を返した。


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