神凪編再


 神凪創は特別ではない
神凪創は選ばれていない
神凪創はごくごく普通のありふれた家族とちょっと長めの反抗期とマイナス思考を持ったありふれたただの人間なのだ。

こんな苦し事に巻き込まれるのは神凪創である必要はなかったのだ。
こんな悲しい事に取り残されるのは神凪創である必要はなかったのだ。

それでも神凪創は、そうである事を選んだのだ。


 最後の一歩だった、もう少しだった。できなかった、生きなかった、進まなかった、なんで?なんで?こんなに頑張ってるのに!こんなにも必死に頑張ってるのに!どうして?どうして生きれないの?なんで、なんで

 「そりゃそうだろ、お前は普通の人間なんだからね」

 ベッドから跳ね起きる。また最初からやり直しだから、何をするか確認しなきゃ行けなくて、また死ななきゃならなくて?また苦しまなきゃ行けなくて?それでも、やらなきゃいけなくて。ぐちゃぐちゃの頭のまんまで朝ご飯を詰め込んで吐き出しそうになりながら学校へ向かう。クラスについたら馬鹿みたいなテンションでおはようって言って、それで、それで??なんだっけ、何をするんだっけ。思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ、なんで出てこないの?なんで思い出せないの?ああああ、なんで!なんで

 「一日目のシナリオはやらんでいいよ、今回はラストだけなんで」

 はやく、はやく入らなくちゃいけないから、とりあえず扉を開けて
「神凪ちゃん」
「!あ、松原くんおはよーッス!」
できたかな?これで出来たかな?
「神凪ちゃん、その…無理しなくていいからね。昨日あんなのに追いかけられたんだし…ね?」
小声で、松原くんが囁く。あんなのに追いかけられたって?え?なんで?何言ってんの?まだ、まだ一日目でしょ?
「おい、かけられて…」
「うん。〈ひきこさん〉、だっけ?怖かったよね。」
「…うん」
一体、何が、どうして、あれ?死んだのは夢なの?何だったの?でも首、切って、あれ?

 「放課後まで早送りな」

 訳がわからなかった。死んでやり直したはずなのに〈ひきこさん〉まで終わってて、みんなが、みんなが生きてて、それで
「走って!」
高木ちゃんの声が急に聞こえて、松原くんに手を引かれる。後ろを見たら松原くんのお腹をぐちゃぐちゃにした時と同じ笑顔で〈あの女〉が笑ってた。

 朝起きたときから気持ちが悪かった。時間がむりやり動いてるみたいな望んでないのに動いてるみたいな、今この時間に今この世界に今この場面に誰かが介入してるみたいな気持ち悪さがずっと、ずっと付き纏ってる。これが良いものなのか悪いものなのかは全然わからなくて、みんな生きれるのかな、もう死ななくていいのかな、色んなものがわかんない。でも惰性で動いて、苦しんでる理由も死に続ける理由も思い出せなくなって、痛いのがわからなくなったあの時みたいになるのが一番怖くて、それだけは避けたくて。どうしよう。何をすればいいの?わかんない、助けて。
必死になってみんなで走って、やっぱり最後にはあの十字路に着いた。着いちゃった。ここに着くともうどうしようもなくなって、みんな死んじゃうんだ。そっか、また駄目だったのかぁ。ははは、残念だったなぁ。
「足、足はいる?いらない?いらない?ねえ、ねえねえねえちょうだい。足をちょうだい。ねえ、足を足をあははははははははははは!!!!!あ…?あ、あああああ!?!!」
パンッ!って何かが破裂する様な音が聞こえた。
そしたら、全部が真っ暗になっちゃった。

 おはよう、おはよー!はよ。おっはー!
「おっはよーッス!」
「神凪ちゃんおはよう。」
「あ、おはよー」
「おはようございます!」
「おや、珍しく早いんですね。おはようございます。」
起きたらいつものベッドの上で、目前で途切れちゃった明日が来てて、何が起きたかわからなくて、スマホを開いたらみんな起きてて何が起きたのかってグループで騒いでて、よくわからないけど大泣きしちゃって、それでも何度も何度も日付を確認した。何が起きて何で終わったのか全然わからなかったし、多分なんにもできなかったし行動したのも意味なんてなかったと思うけど、これが一番なんだなぁと思った。だってさ、神凪創はちょっと平凡からは離れてたりする仲良し五人組の一人で、化け物でも何でもない普通の人間なんだからね。

 「あー!高木ちゃん酷いッス!!!神凪ちゃん早起き頑張ったんスからなんか奢ったり褒めたりしてもいいんすよ!!」
「調子に乗らない」
「これからも続けられたら高木ちゃん褒めてくれると思いますよ。…多分」
「無理だと思うなぁ」
「松原くんって意外とすんなり言うよね」
「ちょっとー!もっと優しくしてほしいッスよ!!!!」

 普通の人間が死人を蘇らせるなんて事はありえないんです。
特別な力もなければ使命も、心の強さも何にもない神凪創は誰も救えないけど誰も殺せない、そんな普通の人間だった。
それだけのお話でした、お終い。


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