松原編再


 松原千里の家は長い歴史を持つ華道の家であり多くの弟子を取り茶道にも通じた由緒正しい一族の子である。高い地位にいる子供として巫林手鞠とはよく似たに性質を持っており家族からの期待、周囲から受ける家柄のみを見る目、教え込まれる沢山の決まり、人と関わることが億劫でもそれを拒む事の許されない立場、そして一人に対する強い感情。しかし松原千里と巫林手鞠の最も大きな違いは2つある、巫林手鞠は周りを諦めたが松原千里は最初から興味がなかった事。巫林手鞠は高木真理を傷つけぬが松原千里は神凪創を容赦なく傷つける事だ。

 おかしな事が沢山起きて、危険な事も沢山あった。それでも今、こうして道を歩いている事がとても幸せに思えるんだ。目の前で楽しそうに笑う女の子三人を見ながら佐藤くんはふと呟いた
「本当にさ、よかった」
「うん、そうだね」
「...もうあんなのは嫌だなぁ」
「うん」
そう、あんなにも恐ろしい事はもうないと思いたい。でもドクドクと動く心臓が気になって仕方がなかった。この前は、この道で、この場所で、後ろから
「その足、要りませんか?」

 「松原くん!!!」
神凪ちゃんの大きな声と共に手を引っ張られ足が動く。五人でまた後ろの〈彼女〉から逃れるように走り出した。
腕を動かし潰れて飛び出した中身を無様に引き摺る〈彼女〉は足、足、足とそれだけを求めてこちらを追いかける。
走って、走って走って。大きな十字路に飛び出した時、わあ!なんて言う声と転倒音が耳に届いた。
「佐藤くん!」
高木ちゃんが足を止めて叫びながら振り返るのとそれは多分同時だったと思う、佐藤くんの足に食い込む〈彼女〉の指に力が込められバギリと音が鳴った。
「あ、足が!ぐっ、あ
...!」
痛みと恐怖で声の詰まる佐藤くんの元へ高木ちゃんが足を動かすよりも早く〈彼女〉は佐藤くんの足を付け根からもぎ取った。
「...!!!...!?」
顔が引き攣り叫び声一つ挙げられない彼とあまりの光景に動けない僕達なんて視界に入らないのであろう〈彼女〉は笑いながら佐藤をバラバラにしていく。巫林ちゃんはもう動けない、神凪ちゃんは何処かに思考が飛んでしまった、高木ちゃんは無謀にも〈彼女〉へと歩みを進める。でも出来ることなんてなかった、佐藤と同じ様にバラバラにされていく。
「高木ちゃん!!!高木ちゃんから離れてください!」
巫林ちゃんが〈彼女〉の髪を掴み高木ちゃんの死体から引き剥がそうとする、でもやっぱり無駄だった。顔を潰されて足を奪われてしまった。
〈彼女〉は僕の後ろにいる神凪ちゃんに目を向ける、それは駄目だ。それは駄目だよ。殺すなら僕を先にしてもらわないと。

 ゆっくりと〈彼女〉の方へ足を動かす僕に神凪ちゃんは気づいたらしい、弱々しい力で僕の服を掴み引っ張ろうとする。
「ごめんね」
ごめんね、僕は君の記憶に残ってたいんだ。僕はせめて、ほんの一瞬だけでも君を守りたいんだ。ごめんね、ごめんね。
僕を掴み満足そうな顔をする〈彼女〉、ますお目当ての足を掴み笑う
「足、足、ちょうだい。ちょうだい。ふふふふふふふ」
骨と肉と神経がねじ切られていく、バキバキと耳障りな音が聞こえて僕はあっけなく死んでしまった。







 神凪創はその喉にカッターを突き立てた





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