高木編再


 高木真理は始まりだった。この楽しい楽しい五人組を作った中心だった。志を伝える事を諦めた彼女の言葉を聞いて、優しい彼に思われて、道化に逃げた彼女を見て、危うい彼を留めていた。
そして、なによりも高木真理はこのお話の始まりだった。
決定打を叩きつけた張本人だった。
それでも彼女は始まりに過ぎなかった、彼女は何も悪くなかったのです。

 顔色の悪かった佐藤くんも楽しそうに笑っていて、とても安心した。よかった、またいつも通りだ。足取り軽く家へと帰れば自室に段ボールが置かれていて、朝見たときにはなかったがもしかしたら母親が荷物起きにしたのか?
「お母さーん!この荷物何?」
「あーなんか届いたのー!開けといて!」
わけがわからないがとりあえず開けよう。
「ぬいぐるみ...?」
ぬいぐるみを手に取ればザリっと音が鳴り腹を赤い糸で縫い付けられていた。
「うわ、何ですかこれ...」
ただただ気味が悪く私はそのくまのぬいぐるみを箱に戻しその日はそのまま放置する事にした。

 何となくぬいぐるみの事が頭から離れないまま部活の時間になり部室へと向う。
「あ、高木ちゃん!」
慌てたように巫林ちゃんが部室から出てきた。
「巫林さんどうかしました?」
「あ、あの!見たことのないぬいぐるみが置いてあって...!それを神凪ちゃんが急に放り投げちゃって!そ、それで!」
「巫林さん落ち着いてください。えっと、ぬいぐるみを神凪さんが放り投げたんですよね?...ちょっと問いただします」
部室に入れば松原くんの影からじっとこっちを見ている神凪さんと満更でもなさそうな松原くん、窓の近くで頭を抱えている佐藤くんが居た。
「神凪さん、どうしてぬいぐるみを窓から放り投げたんですか?」
「違うんスよ!わざとじゃないんス!!!ぬいぐるみを持ち上げたところ中身が想像してた触り心地と違ってなんか生暖かくてザラァ...、みたいな感じだったんすよ!!!」
「ざらあ?どういう事ですか?」
「お手玉っていうかお米?そんな感じだったス...あとめちゃくちゃ生暖かい...人の体温...」
ひぇーと言いながら少し震え始める神凪さんに松原くんはすかさず声をかけた
「生暖かいぬいぐるみって怖かっよね...投げちゃっても仕方ないよ。ほら大丈夫だから。...高木ちゃんも許してあげて?」
全く、コイツは...
「あとでちゃんと拾っておくんですよ」
「あ、それは無理そう...」
おずおずと言った様子で佐藤くんが手を上げた
「敷地外に落ちちゃって...車に轢かれて消えた...」 
「成仏しろよクマァ...」
本当にコイツは...全くこれが日常なのだから騒がしくて仕方がない。

 再びワイワイ騒ぎ始めた4人を見てほんの少し口角が上がった気がした。
...まあ気のせいだろう。



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