今日は、1



街は、至るところがピンク色。
そんな中を人の流れに逆らうようにして独り身で歩くのは、少し辛いのが本音だ。
私の来た方へと流れていく沢山のカップル。
手に握られた綺麗な包み。
きっと、
それはチョコレート。




そんな今日は、バレンタインだ。



今日は、



普通なら、好きな男の子とかにチョコレートをあげるんだろうなぁとか思う。
いつもは言えない気持ちをそっと込めて。
いつもは素直にならない気持ちを託して。
けれど、私はあげない。
だって、今日は。
今日は、



私の誕生日だから。



渡すんじゃなくて、
本当は貰う側。
誰も覚えてないのは、当たり前。
友達は本命に忙しそうだし、男子は自分が貰えるかどうかにそわそわしてる。
悲しくはないけど、嬉しくもない。
そして、今日は朝から男子にチョコレートをねだられた。
毎年おんなじ光景。
私、料理出来ないからって笑って誤魔化す。
なんだよーと不満一杯の顔に向かって、多分いつもに比べると、ちょっと情けない顔してた。
まぁ、でも終わったことだし、いっか。



と、いきなり北風が私を襲ってきた。
ふわっと、首に巻いたマフラーが片方だけ落ちる。
最悪だ。
寒いからってカーディガンのポケットに入れた手をわざわざ出さなくちゃいけなくなる。
はぁー…と私はため息を大きくついて片方の手を出した。


「あっ!!」


カランとポケットから出した手が作った隙間から、リップが転げ落ちた。
思いの外、止まる様子なんて全く見せないまま、どんどん転がっていく。
ちょっと待ってよっ。
私は急いでマフラーを上げつつ、追いかける。


゛カタン゛


リップはスポーツ靴に行く手を阻まれて止まった。
私より大きくて、ゴツゴツとした手がそれに伸ばされる。
顔がリップを追って、徐々に上げられて見たのは、



「よぉ、向坂(サキサカ)」



照れたように笑う男の子の顔。


「丹羽(ニワ)くん?」


彼は、同じクラスの男の子。
ちょっとおちゃらけてるけど、根は悪くない。


「どうしたの?こんなところで」


まぁなと少し誤魔化すようにして、リップを私に渡す。
…ありがと、と戸惑いながらも、私は受け取った。
ちょっとだけ、手が触れたことには気付かなかった振りをして。


「ついでに、これもな」


うん、と頷いて受け取った。
あれ……?
つい、流れで貰っちゃったけど、他に貰うものなんてあったっけ?
視線を貰った物へと向ける。
これは………、



「誕生日おめでと、向坂」



言葉とともに贈られたのは、緑色の綺麗なリボンでラッピングされた袋。
今日、一番縁がないと思っていたチョコレート。


「向坂、今日に限って早ーんだもんな。焦るよ」


ちょっぴり困ったように笑う彼。
いつも見ない顔に、興味を惹かれた。
私だけに、なんて期待はしないけど。


「あっ、それ、ちゃんとバレンタインの意味も入ってんだからな!」


何も言わない私に、焦れったくなったのか少し怒ったような口調。
下を向いた上に、そっぽ向くから顔が見えない。
だけど、耳が真っ赤だ。
……隠した意味ないじゃん。
思わず、ふふっと笑ってしまった。
分かってるけど、



「それって、どういう意味?」



わざと首を傾げて、彼を見つめて聞いてみた。
彼の顔が真っ赤になっていく。
耳とおんなじ色。
これから、楽しい誕生日になりそうだ。




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