出会って、別れて、また



「あー、もうやんなっちゃうっ」

そう口に出して、雨の中を急ぐ。
このバケツをひっくり返したような、しかも急で斜めに降る雨のせいで、体がびしょ濡れ。
だから、雨は嫌いなの!
せっかく身を整えたって、ぐしゃぐしゃに元通り。
何時間かけたと思ってるのよっ。
あー、もうやだやだ!!
そんな気持ちを雨にぶつけるように、体を盛大に動かして雨粒を振り払う。
しかしながら、何度振り払ったって、まとわりつく。
それが更にムカつくのは言うまでもない。
「あっ!」
先に家を発見した。
どうやら、雨宿りが出来そう。
急いで、そちらへ向かった。



「コホ、コホンッ」
薄暗い中はちょっと埃くさくて、咳き込む。
まったく、掃除くらいしなさいよっ。
ササッと身の回りをはたく。
ヒトって、至るところに家を作るのはこういうとき、いいけど、もうちょっと管理するべきよね。
もう一度、回りを払うと、
「いたっ」
と突然声が上がる。
埃ではなく、固いモノに当たったのだ。
「だ、だれっ!?」
私は上擦った声を上げて、そこから少し遠ざかる。
目の前は真っ暗で、誰もいるようには見えない。
でも、声が。
私の他に誰か、先客がいたのかしら……?
声の主はバサバサと大きな音を立てながら、慌てて弁解をし始める。
「あ、待ってっ。怪しい者じゃないんだ。ただ雨が急に降ってきたから、その、あいたっ」
屋根にぶつかったようだ。
ゴンッと結構痛そうな音が響いた。
「……大丈夫?」
と思わず声をかけてしまった。
まぁ、なんか悪い感じじゃないし。
むしろ、運が悪そうというかなんというか。
「な、なんとか……」
痛いけど、とひ弱そうな声で、ぽそっと呟いた。
プッとその様子に笑い声が溢れ出す。
「あ、ヒドイよ。笑うなんて」
ちょっと怒ったような声。
暗闇で相手の顔が見えないせいで、なんだか自分で想像してみたら余計笑えてきた。
ほっぺたとか膨らましていそう。
「ごっ、ごめんごめ……ププッ」
謝る途中でまた、吹き出してしまった。
ちょっと!と怒る声を聞いたら、今度は口を尖らせているのを想像してしまった。



「あなたって、幽霊?」
一通り笑い終えた私は聞いてみた。
即答で返事がくる。
「ち、違うよ!!僕は生きてるよっ」
嘘には思えないけど、
見えない。
外からの光で、中にある置物とかはボンヤリとだけど見えるのに、私以外の生きているモノは見えないわ。
と伝えると、ちょっぴり黙った後、
「僕の体が黒いからだよ」
と答えた。
その声は悲しそうで、心がきゅっと締まる。
それで私がとっさに返せなかったために変な間が空いてしまった。
ど、どうしたらいいのかしら?
こんなとき。
先に口を開いたのは、相手。
「まぁ、しょうがないんだよ。気味が悪いとか言われたって、僕たちはこんな生き物だから」
はははっと笑い声は乾いているのがバレバレで痛々しいの。
あまりに痛々しくて、ギュッと抱き締めてあげたくなるけど、見えないから出来ない。
あぁ、もうなんなのかしらこれ。
「いいじゃない」
気が付けば、そう口にしていた。
へっ?と相手は間抜けな声を出す。
よく分からないわ。
黒いことで、あなたが何を傷ついたのか。
だけど、
いいじゃない、別に黒くたって。
黒くたって、黒くたって、こんな優しいあなたは気味が悪い訳がない。
気味が悪いなんて言われても、気にしなければいいわ。
もっといいことがあなたの体にはあるのよ。
「空にも、海にも、雲にも、染まらないわ。どこに居たってあなたが分かるのよ?」
とっても素敵なことじゃないと私は見えなくとも大きな身振りで説明する。
ちょっと間が空いて、返事が来た。
「そう、だね」
やっぱり黒くて分からないけど、笑ってくれたような気がした。



「なんだか色々ありがとう」
「べ、別に、何もしてないわよ」
突然言われて戸惑う。
うん、と相手は笑った。
なんか笑われてる意味違うわよね。
むぅ…………納得いかないわ。
あっ。
「そういえば、名前聞いてないわ」
そう声をあげると、あ、そういえばと相手も今気付いたようだった。
でも、
「まぁ、いいか」
「そうね」
素直に頷いたのは、なんだかまた会える気がしたから。
だから、さよならは言わないわ。
「じゃあ、また」
「うん、また」



バサバサバサッ


「あっ、お母さんっ。鳥が二羽出てきたよ!!」

「鳥?」

物置小屋を開けた親子が雨が上がった空を仰いだ。
物置小屋を跨ぎ、大空へ架かった虹の端に、水色の鳥と黒い鳥がそれぞれ羽ばたいていった。




出会って、別れて、また
(きっと会える)



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