甘い夢を



日射しも暖かなそんなある日。
私はお嬢様の飲み終わったコップを片付けているとき、ねぇと話しかけられる。
「何でしょうか、お嬢様?」
にこりと私は微笑んだ。
お嬢様は何の前触れもなく、口を開いていった言葉。



「デートしましょうか」



私は思わず耳を疑い、危うくカップを取り落としそうになった。



甘い夢を



「さぁ、次は何に乗ろうかしら?」
うーんと言いながら、お嬢様は背伸びをする。
んー、何ですかね?
私は今、お嬢様と遊園地に来ています。
もちろん、いつものような執事服ではありません。
チラッとお嬢様を見た。
いつもの黒がメインの服ではなく、花柄のワンピースにジーパンという服装に身をまとっている。
思ったより、普通のデートです。
いや、普通でいいのですが。
なんだか、怪しいとかいうかなんというか。
「ほら、相維っ。次はあれに乗るわよ」
お嬢様が指差すのは、この遊園地の目玉の絶叫系のジェットコースター。
なんだかさっきから絶叫系のものばかり。
お化け屋敷も怖がりませんし、面白くありません。
もう少し甘い夢を見させていただいても……。
「お嬢様、絶叫系ばかりではなく、あんなのは如何でしょう?」
ダメ元で聞いたのは、メリーゴーランド。
なんとなく、私の中で恋人っぽいイメージなのです。
「えっ………」
小さくそう呟いたお嬢様の顔は強張った。
予想とは違う反応。
「もしかして、乗れないとでもおっしゃるのですか?シェリーお嬢様とあろうものが」
ふふっと私は笑う。
「の、乗れるわよっ!!それに、シェリーじゃないと言っているでしょう!」
では、と私は笑みを浮かべて顔を真っ赤にさせて怒るお嬢様に手を差し伸べた。



「完全に止まるまで、もうしばらくお待ちください」
死ぬかと思ったわ……。
アナウンスも流れ、もうすぐで私はメリーゴーランドの魔の手からやっと逃れれる。
隣を見ると、白馬に乗った執事改め悪魔がにっこりと微笑みかけた。
……知ってたわね、この人。
キッと私は睨む。
私が、回るものに酔いやすいということを。
完全に止まり、バラバラと皆が出口に向かう。
私も相維もその流れに沿って、メリーゴーランドから出た。
やっと、解放…と一息ついた瞬間、
「さぁ、次はこれに乗りましょうか」
悪魔は満面の笑みでコーヒーカップを指差した。



辺りは暗くなってきて、これが最後のアトラクション。
遊園地を一望出来るほど高い観覧車から見る景色は、綺麗だ。
窓ガラスに手を付けて、色とりどりのイルミネーションで光る景色に私は見とれる。
「あの、お嬢様」
と目の前に座る相維が突然口を開いた。
「何かしら?」
私は眼下の景色から相維へと目線を移す。
少し躊躇うような振りをした後、
「なぜ、デートなどと言って此方へ?」
と相維は口にした。
いつものような軽い口ではない。
バレていたのね………。
隠し通せるなんてはサラサラ思っていなかったので、諦め俯いて小さく呟いた。


「……って聞いたからよ」


「なんと?」
お嬢様の返事は小さくて聞こえない。
「相維が遊園地に行ったことないって聞いたからよ!」
とお嬢様は大きな声で叫んだ。
そして、顔をふぃっと私から背ける。
意地悪のように受け取られてしまったようです。
そのつもりはなかったのですがね。
誤解を解くために、素直に気持ちを述べた。
「ありがとうございます」
すると、お嬢様は少し笑みを綻ばせる。
背けた顔を元に戻して、
「せっかくだから、何か相維の希望を聞いてあげるわ」
と言った。
では、満喫した遊園地を楽しむために、
「もう一度、コーヒーカップに乗りましょう、シェリーお嬢様」
私は心から満面の笑みを浮かべた。





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