こんなに天気はいいから





暑すぎない陽の光が、ポカポカと辺りを照らす。
余りの暖かさに、眠くなってしまいそう。



「いい天気ですねー、御主人様」
アニがふわふわした口調で思わず溢す。
「いい天気だー」
つられて口にして、気持ち良さそうに未来が目を細めた。

はぁ…と俺は寝転がっている二人を横目で見ながら、心の中でため息をつく。
参考書を片手に、
一人だけ木陰に座って。



ここは、学校の裏山。
俺ら三人は、ピクニックに来ているのであった。
高校生にもなった俺たちがピクニックに来ることになったそもそもの発端は………。





「御主人様!!」
部屋の扉を開けると、玄関にはアニがちょこんっと正座座りをして待ち受けていた。
「な、なんだ?」
思わずビクッとしてしまう。
アニは似合わない真剣な面持ちで、俺を見つめた。
なんか、深刻なことがあるのか……?
キュッと気を引き締めて、見つめ返した。
アニの口がゆっくりと開かれて紡ぎ出された言葉は、




「ピクニックに行きたいですっ!」



「ぴ、ピクニック!?」
声が裏返ってしまった。
はいっ!!と勢いよくアニは頷く。
いきなり!?と思ったが、耳を澄ますと聞こえるテレビの音。
どうやら、某子供向きの教育テレビ番組の影響らしい。
陽気なピクニックの歌が聞こえてくる。
「仲良しな人と行くと聞いたんですー」
にこにことアニは屈託のない笑顔。
某番組だったら、有りがちなことだ。
むしろ、ないとおかしい。
一人で頷く俺。
ピクニックは別に構わない。
と言いたいところだが、来週からテストが始まるんだよな。
隣で楽しげな様子のアニを見ると、断るのは可哀想な気がする。
が、しかし………。
ポンッとアニの頭に手を置いて、俺はしゃがむ。
あのな、と言う前に、
「ダ……ダメですか?」
すでに若干瞳を潤ませて俺を見上げるアニ。
うっ……。
更に追い討ちをかけるように続く。
「アニは、ご主人様と仲良くないというわけなのですか………」
「そ…そういうわけでは……」
しどろもどろになって、小さくなる俺の口調。
って、はっ!!!
いや、負けちゃいけない、綺流弥咲!
奴じゃないんだから、ここははっきりとっ!!
アニの青い目をもう一度しっかりと見て、俺は言った。




「いいよ」と。
思い出したら余計、ため息をつきたくなる。
こんなことないはずなのに、本当に未来に侵食され始めてきたな…。
「弥咲ちゃーん」
そんな中、響くにっくき奴の声。
いつの間にか未来が起き上がって、俺の前にいた。
「せっかくピクニックに来たのに、眉間にシワよってるよ?」
腰に手を当てて、やれやれというように首を振る。
お前のせいだよと真っ向から言わない優しい俺。
未来はそんな俺の優しさに気付かないまま、話し続ける。
「やっぱさ、そんなの持ってくるからだよ」
と言うなり俺の手から、さっと参考書を取り上げた。
「おいっ、返せ」
俺は声をあげる。
しかし、やーだよと言って、未来は自分の懐にササッと隠した。
仕方なく立ち上がって、未来のいる方向に向かう。

ん……。

ずっと木陰にいたせいか、日の光に戸惑いを感じて、立ち止まる。
とその隙に、未来がトンッと俺の体を押した。
あっ!!と声をあげる間もなく、ゆっくりと体は倒れていく。
なんとなく、草が音もなく沈んでいくのを肌で感じた。
倒れきった俺の目の前には、してやったりという顔満々で未来が見える。
ムカつくな……あの顔。
悔しいので、立ち上がろうと体を半分起き上がらせたところ、御主人様ーと声がかかった。
隣に寝転がっていたアニがこちらに顔を向ける。
「連れてきてくれてありがとうございますですっ。こんなに楽しいことは初めてなのです」
そう言って余りにも嬉しそうな顔をするから、勉強に一生懸命だった俺がアホに思えてきた。
バタッと力を抜いて寝転がると、目の前に広がる青。
…空ってこんなに青かったんだな。
髪を揺らす心地好いそよ風。
アニたちが言っていたように、今日はいい天気だ。
少しくらい、休んだっていいのかもしれない。
微睡む意識の片隅で、俺はそんなことを思った。



こんなに天気はいいから
(考え過ぎる心に少し休憩を与えよう)



「御主人様、お疲れ気味なのですかねー」

「弥咲ちゃん、苦労性だからさー」

「では、寝かせてあげなくてはっ」

「じゃあ、俺たちは弥咲ちゃんが寝てる間 邪魔にならないように弁当食べちゃおう!」

「はいですー!」




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