檻日和




黒が流れた。
水のようにさらさらとそれは、首筋を伝って肩を越えて、細い背中を滑り落ちる。
思わず掌に掬いたくなって、触れる寸前でその衝動を留めた。

緑は見えない。
瞼が降りている今はまるで日本人形のようだ。
意志の強さが滲むエメラルドに、何度吸い込まれそうに感じたことだろう。




縁側で居眠りなんかしては風邪を引くからと毛布を持った手を、無意識に止めてしまった。
5月の日光は柔らかくて真っ直ぐでなくて、だから眩しくはないのだろう。
だがそれが、どこか浮世離れした美しさを醸し出している。
あまりに神聖で、迂闊に触れることすら躊躇われて、視線も上げた手も、宙をさ迷ったままだ。
ずっと見ていたいようで、すぐにでも目を逸らしたくなる。

「紫衣璃お嬢様、……起きてください。風邪引きますよ」

誰が見ているわけでもないのになぜだか少し決まり悪くなって、中途半端に泳いでいた手は、軽く肩に置かれた。

「お嬢様?」
「ん…………さい、?」

頬に落ちた影が、睫毛の動きに合わせて瞬かれる。
乾いた声が、唇の僅かな隙間から、黄色い陽射しに乗って。

「相維…………ど、こ?」

伸ばした手に触れて、瞼が開くのを確認した。
ふわふわと、少しだけ迷った視線は、掌から腕を上って、肩を過ぎて、頬を掠める。

「ここにいますよ、お嬢様」

そして、ようやく見えた緑に、やはり捕われた。




檻日和







鳴瀬様に書いていただいた「陰陽師」の二人です。
なんだか、会話が少ない分、描写が丁寧で妖しい雰囲気に私ドッキドキです(笑)
なんだか皆様が書かれる陰陽師のお二人は凄く妖しいですよね←

素敵な作品ありがとうございました!!



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