GESPENST-方舟の休息Feat,IXA/Ange- 「私のターン! 場のグリーピングゴブリン二体を生け贄に、出でよジョニー・別府!」 アークはリアルなクリーチャーのフィギュア二つをつまんでデッキの右側に置くと、手札からレリーフ仕様特別版ジョニー・別府のカードを場に叩きつけた。 「この局面でジョニー・別府。やるわね、でも」 俺の右に座るアイーシャは不敵に笑うと、自分のフィールド上にあるドミノを人差し指でつついた。 パタパタとドミノが倒れていき―― 「チェックメイト」 アークのキングにぶつかった。 「ぐわぁっ!! 負けたぁあああ!」 アークは頭を抱え悔し涙を流す。 先ほどからずっと続き、今の勝負で七セット目を終えたこの不毛なゲーム。参加者の俺が言うのもなんだが……。 「意味が解らねェッ!!」 プレイマットの敷かれたちゃぶ台をひっくり返して嘆息した。 モノに当たっちゃダメだ、悪いのはこの魔女達なんだから。 「ど、どうしたの?」 俺の顔を心配そうに覗き込みながらアークが訊ねてきた。 「勝敗条件は何なんだよ?! ターン制じゃねぇのかよ! そもそもルールは?!」 二人は顔を見合わせると、コクリと頷いた。 「「ノリ」」 「貴ッッッッ様らぁあああああああああああ!!」 ■ 三人で床に寝転び、何をするでもなくただ呆けていた。 上から見ると、ちょうど三○矢サイダーのマークみたいになる。 左上からは寝息が聴こえる。多分、アイーシャが眠ったんだろう。 「イクサ君?」 右上からはアークの甘えた声が聴こえてきた。 「何?」 「良かった、起きてた」 「昼間ッから寝れないよ」 「イクサ君はさ、こんな話知ってる?」 「どんな話?」 「昔ね、世界には、天使と悪魔と神様だけがいたんだよ。 天使達は、醜悪な悪魔達を忌み嫌っていて、悪魔達は優美な天使達に憧れてたの。それから何百年も経って、神様は言ったんだよ。 “仲良く出来ないなら、別け隔てをなくすぞー” って。 神様は翌日、天使から翼を奪って、悪魔の外見を翼のない天使に変えたの。 これで、差別や嫉妬がなくなって、彼らはメリハリなく楽しく暮らしましたとさ。 このお話、どう思う?」 アークは、とても返答に困る質問をしてきた。 どうせ下らない事なんだろうとタカをくくっていた。急いで彼女が今言ったことを、頭の中のテープレコーダーで再生する。 「どうって……そりゃ神様が悪いだろ」 俺の言葉に黙って耳を傾け、そして彼女は口を開いた。 「だよね。私もそう思う。 だってさ、神様が勝手にルールを変えたから天使も悪魔も学習する機会を奪われちゃった訳だし、結局、これは問題の解決にはならないよね」 コイツは、ネコを被ってるんじゃないのか? と疑念を抱いたが、すぐさまゴミ箱に放り込んだ。 「あぁ。それに、悪魔は特しかしてない。天使は痛みを負ったのに」 「平等にするためにやったことが、実は平等って言葉からはかけ離れてるの。矛盾だよね」 「で、お前は何が言いたかったの?」 「このお話って結構私達にも当てはまると思うんだー」 「例えば、お前が飯を食いに行って、俺が代金を支払わされるみたいに? しかもこの場合、俺は食べれないと来てるしな」 「ソレとコレは別なのー!! つまりね、自分勝手でルールを歪めちゃう私達人間は、そのせいで誰かから何かを奪っちゃうの。スゴい抽象的に聴こえるかもしれないけどさ、ちょこっと考えてみて?」 「…………お前さ、やっぱりネコ被ってるんよな?」 「ふぇ?! う、うー、じ、じじ実はコレは近所のスミスさんから聞いたんだよー。あははははー」 何を言いたいのか、今一つ流されたが、ニュアンス的な意味では何となく理解できた気がした。 俺の答えはこうだ。 “その環境に慣れるのは、その状況を理解してから” うん。多分こんな感じだ。 あんまり難しい事を考えるとハゲるからな。もう辞めよう。 「ん、ん……何話してるの?」 アイーシャことハリケーンが目覚めた。 「「ひみつだ(よ)」」 ■ 「私はね、食べ物と肉とお魚と肉と皆の笑顔に囲まれて暮らしたい」 五分の二が肉で、五分の四が食べ物だったことは一先ずおいておく。 唐突に、アークが曖昧な笑みを浮かべて言った。 「どしたんー。ゲシュペちゃんのクセにヤケに考えた発言じゃない?」 頬に手を当て、顎をのせたアイーシャは、驚嘆しながら洩らした。 俺も、そう思う。 普段から何も考えていないアーク。だが稀に、極々稀に、深そうな発言をする時があったりする。 「そんなことないよ。でも、私は楽しい日々が唐突に終わるのを知っているから、だから、みんなと楽しく過ごせたらなぁって……あれれ??」 また、自分の話したい事と考えている事とがゴッチャゴチャになって混乱しているのだろう。どうしてこう、俺の周りはバカばっかりなんだ。 「つまり、」 アイーシャが助け船をだす。 「「楽しく遊んでいっぱい食べたい!!」」 アイーシャと笑いながら向き合い、言いはなった。 アークは下唇を少し噛み、微笑んだ。 「よーし。そうと決まりゃ、今日は俺、奢っちゃうぞ!!」 「傲っちゃう、の間違いでしょ」 俺が立ち上がりアークの頭をわしゃわしゃ撫でると、誰にも聴かせないような、小さな声でアイーシャが呟く。 「何喰う?」 「勿論肉! 肉一択でしょ!!」 お出掛け用軍服を肩で着ると、アークは我先に、と武術堂を飛び出していった。 「飯屋は逃げないッつの」 「ねぇ」 不意に、アイーシャが俺の服の裾を掴み引き留めた。 「戦、アンタはアークとずっと一緒に居てあげて」 「はぁ? 何言ってんだよ」 「私は多分、ずっとは居られないから。アンタがあの子と一緒に居てあげて」 俺を見上げる小柄な少女の瞳には、俺を焼き尽くせるぐらい熱い決意の火が点っている。 「解ったよ。でも、なるべくお前も居ろよな? アイツの胃袋じゃ俺は破産しちまうから」 「えぇ。……時……で」 最後の方は上手く聞き取れなかった。 「はーやーくー!! 遅いよー?」 願わくは、世の安寧と彼女の平穏を。 昔読んだ本に、そんな言葉が書いてあった。 当時の俺は確か、何でそんなことをお願いするんだろう、と疑問に思っていた。 不思議と今の俺は、その本の語り部と仲良くなれそうな気がする。 ■その後の話 「眠ーい……むにゃむにゃ」 すっかり軽くなった財布とアークを背負った俺は、後悔している。 語り部、俺なら“彼女の食欲の平穏を”は絶対に書いとくぜ。 ふっふっふっ、この小鳥遊ずっきゅーん来ちゃいましたッ← 全体的にラノベみたくおバカな会話だけれど(←)、アークちゃん何か言っていることが深いです! うん、深い!(重要なことなので二回) イラストもおまけで、嬉しさ二倍です!! とにかく、まとめると可愛い中にん?て思わせ、ちょっと立ち止まって考えさせる素敵なお話でしたっ。 |