返答



ほら、なんだったっけ?
美代子が言ってたアレ。
夜中に一人で、車も人もいない路地を歩いてると、
カツン、カツン、
とハイヒールの音が後ろから聞こえてくるってアレ。
えーと、なんだったっけ?
ねぇ、なんだったかしら?
誰か、ねぇ!!
気付けば、無意識に誰かを求めていた。
人気の薄い早足で進む私の後を、


カツン、カツン、


と同じスピードでハイヒールの音が大きく響くのを聞きながら。
都市伝説とか下らないものだって、バカにして、ちゃんと聞かなかったこと、今謝る。
確か、解決法もあったし、やってはいけないこともあった。
なのに、何もかも思い出せない。
だから、教えてよ。
ねぇ、誰か………お願い………………あ。
私は歩みを止めないまま、手にしたバックをゴソゴソと漁り、見つけ出したのはピンクの携帯。
じゃらじゃらとストラップが音を立てる。
そうだ、美代子に聞けばいい。
美代子美代子美代子………、
アドレス帳のサークル仲間のグループから、探し出す。
……………あった。
迷わず、爪を綺麗にマニュキアで塗った指で発信のボタンを押した。
プルループルルー、ガチャ。
二度目のコールで、出た。
美代子が話し始める前に捲し立てた。
「美代子、あの話もう一回聞かせてっ!!ほら、あの………あ…れ?」
そこで違和感に気付く。
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」
電話の先では、見知らぬ女の声が冷たく返していた。
え……………な、に?
現在使われておりません。
と電話は再び繰り返す。
いつの、ま、に、か、え、た、の、?
昨日もレポートのことで、電話したのに!
一昨日だって!!
なんで、こんなタイミングよくっ!!
美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子美代子
「ん?」
聞き覚えのある声がしたのと同時に、下腹部に鈍い痛み。
ゆっくりと、下を見下ろせば、腹から突き出る赤い刃物がぎらりと光った。
あ、…………れ?
なんで、……わ……た…し?
「呼んだ?」
もう一度した聞き覚えのある声に、ゆっくりと後ろを振り向く。


「ん?」


そこで、気付いた。
携帯をかけたら、殺されるんだった。
そんなことを冷静に考えた私をナイフで刺したまま、美代子が笑っていた。



返答
(電話をかけたら、オシマイ)





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