だましあい 「あんたなんて、だーっいきらいなんだから!」 「ぼくだって!」 また今日も始まった。 僕は少し呆れながら可愛らしい光景に、笑みを溢した。 腰を下ろしても折れてしまわない程度の枝の上で、足を無意味に縦に揺らせば、木々も一緒に揺れる。 それで落ちる木の葉が時々、その木の根元にいる幼い男女の頭を掠める。 二人は、毎日町から少し外れたここに来ては、飽きず、わーわーとやっていた。 嫌いだの、大嫌いだの、大声で叫んでは、最後にはお互いにふいっとそっぽむく。 けれど、あとで気にするかのようにこっそりと相手の方を盗み見るのだ。 で、途中で視線が交差して、またふいっと。 それを何度も繰り返すものだから、全く可愛い。 その光景を思い出して、ふふっと溢してしまった。 二人はまだ口争いに夢中で、そんな僕には気付かない。 僕は鈍いとか超鈍感とよく言われるけど、傍目から見ているだけの他人であるはずの僕からでも、お互いがお互いを好いているのははっきりと分かる。 それなのに、どうも上手くいかないのはお互いがお互いに意地をはって、嫌いなんて言うから。 どちらかが去ると、ここに残ったもう片方が僕の下で、声に出せない叫びを上げながらしゃがみこむ。 そして、こう言う。 いわなきゃよかったのに、きらいなんて。 しゃがみこんだその背中がやけに小さく見えて、また足を揺らす。 木の葉がその背中に触れて、その痛みを吸いとって、風に流れてどこか遠くに運んだらいい。 そう思いながら、足を揺らす。 でも、今日こそは、どちらにもそんな思いをしてほしくないから。 また足を揺らした。 一枚だけ、木の葉が落ちる。 ゆらり、ゆらり、と下へ。 木の葉はそっと、女の子の頭にのった。 「だから、あ」 男の子は言いかけた言葉をしまい、じぃーと女の子を見つめる。 「な、なに!?」 動かない男の子とは対照的に、女の子はおろおろと落ち着かない様子。 「うごかないで」 少し大人びた声がして、ビシッと女の子の動きが止まる。 男の子は女の子に触れて、 「とれた」 と手に取った木の葉を見せながら、笑った。 女の子は暫し、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。 「あ、ありがとう」 そして、思い出したかのようにお礼を口にした。 男の子はまだ笑ったままで、 「あのね、ぼく」 ザザザザ――― 強い風が吹いて、桜の木の葉を撒き散らしながら、次の男の子の言葉を掻き消す。 だけど、風が止み、木の葉も全て地面に伏せたあと、女の子は嬉しそうに笑っていた。 だから、僕は嬉しくなったんだ。 だましあい (だいきらいは、だいすきだよ) |