今は、まだ



ガタンゴトン…


ヘッドフォン越しに聞こえる、規則正しい音。
片手で吊革をつかんで、両足で揺れる体を支える。
ヘッドホンから流れてくるお気に入りの曲に、目を閉じて聞き入る。
最初は未知の世界と感じていたこの電車で通うことにも慣れたものだと最近思う。
なんてこんなことを思う余裕まで出来たのだから。
車内は朝のラッシュとは違い、まだ学校の部活が終わる時間ではないため、疎らに人がいるだけで静かだ。
そして、目の前を移り変わるように過ぎていく景色。



゛進学はどうする?゛



そう今日の二者懇談で先生に言われた言葉が谺した。
進学。
それは高校二年生の春にもなれば、そろそろ考えなくてはいけないことだと分かっている。
大概は、進学か就職。
そんなことは分かりきっているが、

後ろに背負ったギターに意識がいく。

こちらの道に進んでみたい、そう思う気持ちもある。
それは隠しきれず、俺の心に大きく根を張っている。
音楽の道(ソノミチ)に進み、成功する者は一握りなことくらいなことも分かってる。
どれも、分かってる。

現実を見る俺、夢を見る俺。

現実を見る俺は、自分のしたいことを隠して、大人たちにいい顔をして、嫌われることを必至に逃げる。
夢を見る俺は、なれるかどうか、食っていけるかどうかさえも分からないまま、フラフラと生きていく。
ただ、
分からないのは、どれが正しいのかということ。
周りの大人は急ぐように、急かすように、選択を迫る。
どれが、正しい?
どの道に、俺は進めばいい?
それは俺にとって、どんどんと小さな窮屈な箱の中に閉じ込められるようで。
きっとその箱の中で、
俺は朽ちて、


゛がむしゃらに思うまま、今を進んでいけばいい゛


ベッドホンからそんな歌詞が聞こえてくる。
これは、次のライブ用に同じバンド仲間が創った歌。
がむしゃらに進んでいけばいいなんて、
ありふれた言葉のようで、
意外と与えられることのない言葉。
何も知らないような大人から与えられる安っぽい言葉ではなくて。
同じ夢を目指す者から、同じことに苦悩して選び抜いた言葉。
それは、ストンと心の中にはまった。

トントトン

突然耳に聞こえてくる音。
それは、ヘッドホンからでもなく、自分が発していた。
いつの間にか、俺は横にかけていたカバンに指でリズムを刻んでいたのだ。
思わずそれに苦笑して、やっぱり音楽との縁は切れない。
そう思った。



今は、まだ
(先のことは気にしなくていい)



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