春夏秋冬を過ぎて



あるところに四人の兄妹がいました。兄妹といっても、本当の兄妹ではありません。神様に集められて、兄妹とさせられたの四人でした。集められた順に、「ハル,ナツ,アキ,フユ」といいます。


春夏秋冬を過ぎて


四人は神様から一つの仕事を与えられていました。それは、決められた場所を一年に一度、渡り歩くことです。その役目が終わったら休めるようにと、四人は一つの家を与えられました。



その家でいつも、末っ子の妹のアキは一人ぼっちでした。その兄たちが家にいることは、ほとんどなかったのです。一番最初に役目を果たしに行くハルはのんびり屋の女好きで、いつも寄り道ばかりして帰ってくるのが遅いのです。次に出ていくナツはせっかちで、回る場所が多いからと言って、ハルの後を追うようにして、すぐ出ていってしまいます。最後のフユは、神様に三人とは別に仕事を与えられて、家にいることはありませんでした。アキは一人きりの家の中を見回しました。たくさんの家具も、広すぎる部屋も自分には合いません。庭に咲く色とりどりの綺麗な花を見ても、楽しくありません。アキは、小さな溜め息を何度も何度もつきました。



そんな日々が続き、やっとアキが出かける日がやってきました。準備したものを声に出して一番確認します。そして、よいしょと小さく溢して背中に背負いました。アキは最後にもう一度、部屋の中をぐるりと見回します。一人でいた寂しい家でも、離れるときはやはり悲しいものです。名残惜しくなる前に、アキは急いで家を出ました。



いざ家を出ると、唐突に一人という現実が押し寄せて、ブルッとアキの体は震えます。それでも、神様がアキたち四人に託した仕事はやらなければなりません。その気持ちが、アキを少しずつ、少しずつ動かしました。家を出て十数歩歩いたところでしょうか。アキに後ろから声がかかりました。振り向くと、そこにいたのは最後のフユ。急いで走ってきたのか、肩で息をしています。一緒に行こうとフユは当たり前のように笑いました。アキは、この優しい最後の兄が大好きでした。他の二人の兄も大好きでしたが、フユは格別だったのです。アキは、フユに向かって手を伸ばしました。



二人は走るように、駆けるように様々な場所を巡ります。アキは、楽しくて仕方がありませんでした。もう、一人きりではなくなったのですから。アキは繋いだ手を引っ張って、先に行きます。フユは少し困ったように微笑みながらも、アキのペースに合わせました。こんなに急いだら、この楽しい時間が終わってしまうとアキには分かっています。それでも、アキはもっと、もっと速くと望むのです。アキ自身、それは止められないのでした。この嬉しい気持ちは、それでしか表せないのですから。アキが駆けると、冷たい風が吹きました。フユが駆けると、その風は雪を運びました。
そんな二人の後には、白銀の世界が広がったのです。



やがて、この楽しい旅は終わりを迎えます。二人は、あの家に戻ってきました。ギュッとアキは、フユの手を握りしめます。本当を言えば、アキは帰りたくありません。帰ってしまえば、また寂しい毎日が続くのですから。アキは、優しい兄を見上げました。フユはそっと微笑みます。大丈夫というように。そして、フユはゆっくりとドアノブに手をかけました。




- おかえり -




その言葉が一瞬にして、アキを包み込みます。その家で待っていたのは、寂しい毎日ではありませんでした。二人の兄が、二人を迎えていたのです。温かく、優しい響きを持つその言葉とともに。ポンッと大きな手が俯いているアキの頭を撫でました。アキは兄が笑っていることが見なくても分かりました。そして、
自分の頬に温かいものが伝ったことも。



四人は時間が経つのを忘れるくらい、話しました。一人一人が、自分の旅を語ったのです。楽しいことも、大変だったことも、驚いたことも、嬉しかったこともすべて。外は雪が降り続けていましたが、家の中は暖炉の暖かい炎の熱で満たされていました。幾分か寒さが和らぎ、話もちょうど一息ついたとき、ハルが立ち上がりました。もう、そろそろ行かなくちゃねと言って。じゃあ、僕も戻らないと、とフユも立ち上がりました。あっ……とアキが声を上げます。どうしたの?と二人は振り向きました。伸ばしかけた手を、アキはキュッと膝の上で握りしめます。本当は言うはずだった言葉を、ぐっと飲み込みました。代わりに、いってらっしゃいと笑顔を送ったのです。二人は目を大きく丸くしました。と、すぐに目を細めて、慈愛に満ちた顔へと変わります。ただ、いってきますとだけ言って、二人は出ていきました。



家に残されたのは、アキとナツの二人です。家の中は少し寂しくなったけど、二人だけになっても、話は尽きることがありませんでした。しかし、ナツはせっかちです。話し始めてすぐにそわそわとして、ナツは何度も何度も外を振り返ります。けれど、アキには優しい顔を向けたまま。アキはそんな兄を見て、言いました。
行ってもいいよ、と。
一瞬驚いた後に、分かってたかというように、ナツは頭を掻いて困ったように笑いました。そんな様子じゃ、分かるよとアキはクスクスと笑います。用意を終えたナツは、優しくアキの頭によく日に焼けた手を置きました。アキは、頭一個分以上大きい兄を見上げます。留守番、頼むなとナツは歯を見せました。うんとアキが頷くと、ナツはもう片方の手に持っていた麦わら帽子を頭に被せて、背を向けます。その背中に、アキはいってらっしゃいと投げかけました。ナツは、手だけ上にあげてヒラヒラと振ります。そして、ドアは大きな音を立てて閉まりました。




アキは、また寂しい毎日を繰り返します。けれど、ただ寂しいだけの毎日ではありません。四人で過ごしたこの家を守るために。三人の兄たちを見送るために。きっと必ず来る温かい日々を夢見て、
アキはこの家で長い長い日々を過ごすのです。







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