エリートの流儀・弐

翌日、舞はいつも通りに仕事をしながらもどこかへ電話したりして忙しそうにしていた。
忙しいのはいつものことだが、別のことを合間にやっているような。
土方は煙草に火をつけながら、襖越しに誰かと電話をしている舞の声に耳を傾ける。




「・・・ありがとうございます!では後で取りに行きます。はい・・・」

「(佐々木、じゃねぇよな)」

「副長?すみません、今日は夕方には上がっていいでしょうか・・・?」

「・・・どうせ近藤さんには許可取ってあるんだろ。好きにしろ」




思わず素っ気ない態度になってしまったが、別のことに気を取られている舞はそれどころではないらしい。
ありがとうございます、と襖越しに一礼すると自室の方へと歩いて行く。
土方は筆が進まず、ついにぐしゃりと紙を握りつぶすと部屋を出て行った。


夕方になり、今日の分を急いで終わらせた舞は慌ただしく屯所を出て行く。
それを見送っていた近藤に、山崎が局長、と声をかけた。




「舞さん、どこか行くんですか?」

「佐々木殿とお食事デートだ。・・・ああ心配だなあ・・・」

「えぇ!?佐々木殿って、見廻組の?何でまた急に・・・」

「さぁな。真選組の紅一点がどんなものか見たかったんじゃないのか?」

「そりゃそうでしょうけど・・・大丈夫ですかね」

「舞なら上手くやるさ。エリートじゃないが準エリートだ。佐々木殿もそこまで悪人じゃないだろうしな」




そこまで、って。
山崎は言葉を飲み込んで無事に帰ってくるといいんですけど・・・と溜息を付く。
舞の周りではロクなことが起きない。

それを承知の近藤は、今回ばかりは帰りを待つしかないな、と肩を竦めて自室へと戻った。



屯所を出た舞は美容室に向かっていた。
店が見えてくると、舞の担当をしている雪が舞さーん!と手を振っている。
お雪さん!と返事をして駆け寄ると、雪は舞に抱きついて嬉しそうに笑った。




「ウチを選んでくれてありがとう!服はいくつか用意したからそこから選んでくれる?」




美容室に入ると奥の方へと案内される。
着物、ワンピース、ドレスがあり雪はどれも舞さんに似合うと思うんだけど・・・と首を傾げた。




「どこへ行くのか、とか分からないの?」

「家康像の前で待ち合わせってことしか分からなくて・・・」

「うーん、じゃあ大江戸ホテルでディナーかなぁ・・・これはどう?」




淡い黄色に花の模様が描いてある着物を手に取り、舞に当ててみる。
舞は着物かぁ・・・と佐々木の姿を思い浮かべる。
私服はどんなものを着るのか知らないが、和装も洋装も着こなしていそうだ。エリートだし。
悩む舞の顔を見て、雪はじゃあこっち、とドレスを当てる。

ダークブルーのドレスは綺麗だが、肩が出ているタイプはどうなんだろう?
あまりいい顔をしない舞に、雪はやっぱりこっち?とワンピースを当てた。
シックなグレーの膝丈ワンピースは何だかスーツにも見えて、舞はこれがいい、と即決した。
舞さんはもっと明るいの着ればいいのに、と苦笑いしつつも他のものを他の店員に片付けさせ、舞を別室へ連れて行く。
着替え終わったら呼んでね、とウィンクして出て行ったのを見て、舞は一人でよし、と意気込みを入れた。

着替えてすぐに部屋を出ると、雪が拍手で出迎える。




「わ、似合うね!ちょっと暗いかなって思ってたけど、相手がお偉いさんならそんなんでいいか!」

「お雪さん、なんか適当になってない?」

「そんなことないよ!さ、メイクと髪いじっちゃおうねー」




にこにこと笑みを向けられ、舞は苦笑いして椅子に座る。
ちらり、と店の時計を確認した。
待ち合わせの時間は20時で今はまだ18時にもなっていない。
それに雪なら手早く終わらせてくれるだろう。




「お願いしまーす」

「はーい。髪はどうする?上げちゃう?」

「うん。邪魔にならないように」

「そういう時はスープに髪が入らないように!とか言うもんじゃないの?」

「え、そ、そうなの?」

「そうだよ!あ、時間どれくらい余裕あるの?タクシー呼んでおくよ」




・・・本当に気が利く人だ。
舞は20時に待ち合わせというのを伝えると、じゃあ髪いじる時間増やしちゃお、とシャワー台に連れて行かれた。

その後は髪を洗い、乾かし、サイドアップになった髪に簪が刺される。
前髪も丁寧にヘアーアイロンで伸ばされた。
これだけで別人に見える舞が鏡で自分を凝視していると、雪がくすくすと笑い出した。




「舞さんって本当に面白いね」

「・・・馬鹿にしてる?」

「違う違う!何歳になっても女の子だね。今日のデート上手くいくといいね!」

「女の子って歳でもないし、デートじゃないんだけどな・・・」

「まぁまぁそう言わずに。しばらく目瞑ってたら別人に出会えるよ」

「・・・おねがいしまーす・・・」




お雪には勝てる気がしない。
舞が目を閉じると、お雪さんが魔法かけちゃうぞ、と言われて思わず吹き出してしまった。




エリートの流儀
(もし恋人ができたら、こんな風にお洒落してデートしに行くんだろうか)

[ 4/18 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -