エリートの流儀・壱

舞、ちょっといいか?


私室で書類と睨めっこしていた舞の元に近藤がやってきた。
いつもの明るい表情ではなく、どこか不安そうな顔に眉間に皺を寄せる。
それを見てトシみたいだぞ?とからかう近藤に笑みが浮かんだのを見て、どうかしましたか?と部屋に入るように促した。




「舞は最近よくやってくれてる!」

「・・・え?は・・・はあ、ありがとうございます」

「それで、だな。よくニュースや雑誌に取り上げられるようになっただろう?」




あのチンピラ警察の紅一点!初の女隊士!どんな手を使って潜り込んだのか?

様々な記事が書かれているのを知っている舞は、苦笑いしてそうですね、と近藤用にコーヒーを淹れる。
近藤はそれを見てだなぁ・・・とまた言葉を濁すと、どう伝えたらいいのかと言葉を探しているらしい。
ゆっくりでいいですよ、とカップを差し出せばうーん・・・と唸った近藤はそれを受け取り、見廻組って知ってるか?と尋ねてきた。




「ああ・・・えっと、真選組と同じ警察組織ですよね。確か局長が・・・佐々木異三郎殿、でしたっけ」

「その佐々木殿が、お前に会いたいんだと」

「・・・え・・・ええ!?な、何で!?」

「"真選組のファンとして挨拶したいだけです"とは言ってるんだが・・・」




ファンと自称してはいるが真選組を良く思っていないのは事実。
舞は分かりました、と言うと近藤はいいの!?と驚いて顔を上げる。




「はい。佐々木殿にもそのようにお伝え下さい」

「し、しかしなぁ・・・何を言われるか分かったもんじゃないぞ」

「そんなの今更じゃないですか。それに、三天の怪物と呼ばれる男がどんな人なのか気になります」




舞はそう笑っていたが、近藤は気が気じゃない。
じゃあ佐々木殿にもそう伝えておくから・・・とコーヒーを啜ると、舞はそれを見てエリート様との差はこういうとこから広げられていくんですかね、と苦笑いした。


―――数日後、土方と共に見回りを終えて戻ってきた舞は近藤に呼び止められる。
土方が居るのを気にしてあの話なんだが・・・と切りだしたが、すぐさま何の話だ?と食い付く。




「お妙さんの話ですよ。デートに誘うにはどうしたらいいか、って」

「ったく・・・愛情表現も大概にしとけよ。舞、後で茶持ってきてくれるか」

「はい」




土方が去っていったのを見送り、佐々木殿の話ですか?と小声で切り出す。
土方も佐々木同様、見廻組を良く思っていないという噂を知っていた舞は咄嗟に嘘をついていた。

近藤は助かった・・・と冷や汗を流しながら明日にでもどうかと言われたんだが、と腕を組む。
明日は仕事はあるものの、それは佐々木も同じだろうから夕方か夜になるだろう。




「大丈夫ですよ」

「そうか、それは良かった!じゃあ早速佐々木殿にもそう伝えるから」

「その必要はありません」




突然聞こえた第三者の声と、舞の携帯にメールがきたのはほぼ同時だった。
はっとして振り返ると今試しにメール送ったので、と眠たげな目が舞に向けられる。

何でここに居んのォォ!?と絶叫する近藤に、男はどうもお邪魔してます、と無表情で挨拶をした。




「見廻組局長、佐々木異三郎です」

「こ・・・こんにちは」

「今私のメアドを登録しました。後で明日の待ち合わせ場所や時間をメールしましょうね」

「は、はぁ・・・」

「思っていたよりも小奇麗な方ですね」




じろり、と上から下まで眺めるような目線に舞は苦笑いした後、真剣な表情になり敬礼をする。
佐々木はおや、といつの間にか手から抜けていた携帯が舞の手にあるのを見て、これはこれは・・・と笑みを浮かべた。





「真選組副長補佐、周藤舞です。・・・お話ならメールではなく直接しましょう」

「メール派ではないのですか。残念です」

「申し訳ありません。エリートの佐々木殿と違い、凡人の私は忙しいもので」

「ちょ・・・ちょ、ちょっと舞ちゃん?顔怖いんだけど?」

「すみませんエリートで。なら口頭でお伝えします・・・明日の20時に家康像の前でお待ちください。お迎えに上がります」

「・・・分かりました」

「ああそれと、ドレスコードがありますので」




さすがエリート、と顔を引き攣らせる近藤に舞ははい、と笑みを浮かべる。
俺のスーツ新調したほうがいいかな?と舞に尋ねるのを見た佐々木は、私と彼女の二人だけの予定なので、と言い残して颯爽と去っていった。

屯所の前に車を止めていたらしく、エンジン音が遠ざかっていく。




「・・・え、ええェェェ!?もうそれデートじゃん!お食事デートじゃん!」

「・・・さすがに驚きました・・・不安ですね。局長、ペットのゴリラとしてついてきてくれませんか?」

「おかしいだろォォ!ペットのゴリラって何!追い出されるに決まってんじゃん!」

「だって一人って怖いじゃないですかァァ!!」

「―――何の話してんだ舞?随分楽しそうじゃねェか・・・」




がし、と肩を掴まれて振り返ると引き攣った顔の土方が舞を見下ろしていた。
ぎゃああ!!と叫ぶ近藤を他所に、テメェ何佐々木と飯食う約束してんだァァ!!と怒鳴り散らす。
断るほうが悪いでしょうがァァ!!と取っ組み合いを始める二人に、近藤は心配だ・・・と痛む胃を抑えた。


夜になり、夕食を食べに食堂にやってきた舞が明日のことを考えていると隣いいですかィ、と声をかけられる。




「聞きやしたぜィ、舞が佐々木殿にデートに誘われたって」

「違うんですけど・・・」

「まぁ何でもいいですけどねィ。唐揚げもーらい」

「ちょっと!沖田さんいっぱい持ってるじゃないですか!」

「嫌がらせしたかったんでさァ。俺は明日夜見回りだってのにアンタはデートだし」

「だからデートじゃないですって!」

「土方のヤローともまだデートしたことないってのに、災難ですねィ」

「は?何で副長が出てくるんですか」

「・・・同情しますぜィ、土方さん」

「うるせー」




いつの間にか隣に座っていた土方に、いつからそこに・・・と目を丸くする。
いいから食え!と舞の唐揚げ定食にマヨネーズをぶちまけた瞬間、またいつもの言い合いが始まった。




エリートの流儀
(エリートだが何だか知らねぇが、ウチの部下に手ェ出したら叩き斬ってやる)
(あああああ私の唐揚げがゴミになったぁぁぁ!)
(テメーぶっ殺されてーのかァァ!!)
(舞、唐揚げとマヨネーズはそこまで相性悪くな・・・・・・おろろろろろ)
(総悟ォォォ!!)

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