期待の新人は駄目になるか天狗になるかの二択

―――本日付けで見廻組局長に任命されました、佐々木異三郎です


まだ若いというのに見廻組局長とは。
三天の怪物とか・・・
佐々木家の長男らしいぞ。



好機の目を物ともせず、佐々木は警察庁長官である松平と共に本庁を歩いていた。
松平の上司、警視総監が直々に佐々木に会いたいと言い出したのだ。
佐々木家の長男ってのも大変だよなァ、と笑みを浮かべていた松平だったが、
警視総監が待つであろう部屋のドアが見えるとぴたりと足を止める。




「こっからはお前さん一人で行け。オジサン・・・ちょっと、ほら、アレ。用事思い出したから」

「は・・・はぁ」

「じゃ、総監によろしく言っ「やぁ松平君。どこに行くのかな」




いつの間にか開いていたドアから、制服ではなく黒いワイシャツに赤いネクタイ、ズボンは制服で靴も革靴という何ともいえない格好の女が立っていた。
歳はぱっと見中学生とか高校生とかそれぐらいだ。

長官である松平に君付け。しかも呼ばれた松平は冷や汗をかいていや、あの、などと言い訳を始めている。
佐々木は何が起きているのか分からず呆然としていたが、少女の胸についたバッジを見て素早く敬礼した。




「本日付けで見廻組局長に任命されました、佐々木異三郎です」

「よろしく佐々木君。松平君、お茶の用意して。・・・さ、こっちこっち」

「ただいまお持ちしまァーす・・・」

「・・・」




表情には出さなかったが、内心佐々木は嫌気が差していた。
警察のトップがこんな少女?馬鹿にしているのか。
警視総監の顔を知る人間は少ないということは知っていたが、まさかこれが原因とは。

佐々木の視線を感じて振り返った少女は、にこりと笑って話はこっちで聞くよ、と部屋に招き入れる。


部屋には必要最低限のものしかなく、ずらりと並んだ表彰状に佐々木は目を奪われた。
全部この少女の功績だというのか?
信じられない、という顔の佐々木に少女はソファーに座り、不満そうな顔だね、と笑った。




「・・・いえ、そういう訳では」

「嘘が下手だねぇ佐々木君は。いやいや、警察たるもの嘘ついちゃ良くないんだけどね?」

「・・・」

「お茶お持ちました・・・佐々木ィィ!テメェ総監に失礼なこと言ったんじゃねぇだろうなァ〜・・・?」

「松平君新人潰しはやめてよ。まぁ座って座って」




松平と佐々木もソファーに座ると、にこにことお茶を啜る少女に何だか力が抜けてしまう。
早くもぐったりとした佐々木に、松平は小声で逆らうとロクなことねぇぞ、と忠告したのだが。

聞こえてるよ、と真っ黒い笑みを向けられて松平は早くも沈黙した。




「いやー、佐々木家の長男が見廻組の局長とはね。うんうん、これで安心だよ」

「・・・ありがとうございます」

「不満!って顔に書いてあるよ。まぁいいんだけどね。どうやったら私を上司って認めてくれるのかなぁ」

「あの・・・」




何と言ったらいいか分からず口ごもる佐々木に、松平はたまには現場に出てみればいいんじゃないですかねェ、と笑みを浮かべる。
途端に嫌そうな顔をした少女だったが、じゃあ皆の顔見るついでに行こうかなぁ、と立ち上がった。




「この辺でなんか事件起きたりしてないの?」

「今日はかぶき町で強盗事件があったぐらいで、比較的平和じゃないですかねェ」

「強盗かー。銀行強盗かな。まだ犯人いる?」

「大金用意しろってんで時間伸ばしながら突入の用意させてます」

「危ないねぇ。じゃあ見に行こうか」

「どういう理論ですか!」

「お、突っ込んだね。いいねいいね、元気があってナンボだよ」




じゃあ行こ行こ、と何の準備もせず部屋を出て行く少女の背を見て、佐々木は何だこの娘は、と思った。
松平がその後に続いたのを見て慌てて自分も部屋を出る。



松平が運転する車の中で、少女はイヤホンマイクと防弾チョッキを膝に乗せていたが、つけたのはイヤホンマイクだけだった。
佐々木は防弾チョッキはいいんですか、と尋ねたが少女はにこりと笑って多分いらないよ!とチョッキを足元に置く。
かぶき町に着くまで無言だったが、少女がたまに鼻歌を歌うものだから緊張混じりだった佐々木は何となく落ち着けていた。


到着するなり車から出てきた松平に全員が驚くが、今日任命されたばかりの見廻組局長と見知らぬ少女が一緒に降りてきて首を傾げる。
少女はズボンのポケットから警察手帳を取り出してバッジを見えるように引っ張ると、ちょっと通してねー、とすたすた歩き出す。




「え、ちょっとォォ!?犯人銃持ってるんですけど!?」

「あァ〜・・・あの人は何言っても聞かねェから、まァ適当に援護してやってくれや。突入の用意は?」

「で、出来てますけど・・・あの松平公、あの子は・・・?」

「オメーバッジ見なかったわけ?オジサン悲しいよ、あれ見ても上司って分からないなんてよぉ」

「じ、上司ィィ!?え!?松平公の上司って、あの、」

「―――すいませーん。警視総監の周藤舞って言うんですけどー、中入れて下さーい」

「オイィィィ!死にてーのか!」




慌てて全員が舞を引き止めにかかるが、銀行内から犯人の一人が威嚇射撃をしたため後ろに下がる。
佐々木は止めないんですか!?と銃を抜いたが、松平はまァ大丈夫だろ、と呑気に欠伸をする。
私は行きます、と前に出たのを見て若いっていいねェ・・・とぼやいた。




「あれ、佐々木君来たの?」

「警視総監一人で突っ込むなんて馬鹿です。私が援護しますから突入させましょう」

「ええ?駄目だよ、人質に何かあったら私のクビ飛んじゃうもん」

「先に貴女のクビが飛びますよ!」

「おめーら何ごちゃごちゃ言ってんだガキ共!用件は何だ!」

「ガキ共だって。傷ついちゃうな・・・えっと、人質の開放ですー。私が代わりになるから、ってのは駄目ですかね」

「駄目に決まってるでしょう!私が行きます」

「期待の新人に何かあったら困るしなぁ・・・」

「そっちで喋ってんじゃねェェ!!」




強盗が発砲しようとしたのを見て、待機していた警官全員が銃を構える。
ガキがでしゃばるからこうなるんだよ!と叫びトリガーに指をかけたのを見て、
舞は佐々木が手に持っていた銃を素早く奪い取ると、何の躊躇もなく発砲した。

佐々木は咄嗟に舞を庇うように抱きしめていたが、お互いに発砲した弾はどこへいったのか。
カラン、と乾いた音がして目線を下げるとぶつかり合った弾が2つ離れたところに潰れて落ちていた。
青ざめる犯人に、舞はにこりと笑って投降しなさいコノヤロー、と突入の合図をする。
とんでもない無茶をしたが事件は解決し、佐々木はぐったりとしたようにその場に座り込んだ。




「あれ、どーしたの佐々木君。具合悪い?」

「貴女の所為ですよ!警視総監とあろう者がそんな無茶していいわけがないでしょう!馬鹿なんですか?」

「お、おう」

「本庁はエリートの集まりと聞いていましたが貴女は本当に―――・・・何がおかしいんです」

「ぶ・・・っはははは!ああ、いいねぇ佐々木君。私を上司って認めてくれた?」

「はぁ?今はそんな話をしてるわけじゃありません」

「まぁまぁそう言わずに。期待してるよ、佐々木君」

「ちょっ・・・総監!」




何事もなかったかのように車に戻ろうとする舞を呼び止めると、くるりと振り返った舞は満面の笑みを浮かべていた。
なーに?と歳相応の表情に目を奪われて無言になる佐々木に、舞はまた会おうね、と手を振って車に乗ってしまった。


運転のために松平も車に乗ろうとしたが、ぼーっと舞の居たところを見つめる佐々木の肩に手を置く。




「悪いことは言わねェ、総監だけはやめとけ。な?」

「・・・もう遅いです」




期待の新人は駄目になるか天狗になるかの二択
(数年後、再会した二人は相変わらずだった)

(佐々木君!素敵な男性になったねぇ。なんか目眠そうだけどそんな顔だったっけ?昔はもっと元気あったよね?)
(相変わらずで何よりです総監。私は元々こんな顔ですが。そして今も元気です)
(・・・そんなキャラだったっけ?)
(総監のせいです)
(え、ええ?なんかごめん?)

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