初めましての自己紹介はいらないよ

道場で何人かの隊士と手合わせした舞は、休憩のために邪魔にならないよう端に座っていた。
あ、あの補佐官!と声をかけられ、顔を上げると最近入った新人隊士達がぞろぞろと舞を囲んでいた。
どうかしましたか?と座るよう促すと、補佐官が真選組に入った理由が聞きたくて・・・と緊張した顔で舞を見ている。
きょとんとしたが、じゃあ休憩がてらお話しますね、と笑って昔話を始めたのだった。




―――昔、攘夷戦争に参加してたんです。

それだけで隊士達は十分に驚いた顔を見せる。
舞は苦笑いして、のんびりと続けた。




「私は戦争が終わってからは、剣以外のことを学ぶためにあちこちで働いてたんです。甘味屋でバイトしたり、それこそ嫌いだった天人が作った企業の下働きとか、用心棒とか。」

「今でも天人が嫌いですか・・・?」

「まぁ好きではないけど、慣れたっていうか。女性として生きるために料理裁縫とか、色んなこと勉強するためにバイトが終わってからずっと図書館にこもってたりとか」

「何でそこまで?」

「剣しかやってこなかったから。廃刀令が出てからはそれこそ居場所なんてないようなものだったし・・・」

「どうして真選組に?」

「天人のお偉いさんの用心棒として雇われたときに、松平長官に会って・・・」




地球人を見下すばかりか、自分が雇った舞さえもぞんざいに扱った天人が居た。
平気な顔でそれを受け流す舞に、松平は息苦しくねーのか、と尋ねる。
やることを選んでられないと苦笑いすれば松平は舞の了承もなく、突然真選組に放り込んだのだ。

―――お互いいい刺激になるだろ、と一言だけ残して。




「ち、長官・・・なんて滅茶苦茶な」

「でしょう?まぁ最初は全員に敵視されてたんですけどね」

「えぇ?想像つきません」

「だから全員と勝負する、って言ったら局長が猛反対して。それでも頼み込んで、平隊士から順番に戦っていって・・・沖田さんに滅多打ちにされた後は記憶がちょっと抜けました」

「う、うわぁ・・・」

「でも沖田隊長とやり合うって相当ですよ!?」

「手加減してたんでさァ。勿論俺のほうが強いに決まってんだろィ」




突然話に入ってきた総悟が、面白そうな話してんじゃねーか、と言いたげに舞の横に座る。
いつの間にかやってきていた斉藤が沖田とは反対側に座ったのを見て、隊士達は怯えながらも斉藤隊長も戦ったんですか?と尋ねた。
無言のまま首を横に振る斉藤に、舞は苦笑いする。




「終兄さん、舞とやりあったことないんですかィ?」

「・・・ZZZ」

「アレ?斉藤隊長?」

「いつものことだから気にしないで下さい」

「えええ!?」




舞がそろそろ戻らないと、と立ち上がると土方が舞!と呼びつける。
はい、と返事をして前に出ると久々にやろうじゃねーか、と竹刀を投げ渡された。




「・・・あ、あの沖田隊長」

「何でィ」

「あの土方副長が女性隊士を認めた理由は・・・?」

「・・・ま、見てれば分かりまさァ」

「は、はぁ」




壮絶な打ち合いが始まり、他の隊士達は慌てて避難する。
始まったか!と近藤が沖田達の傍に座ると、何の話してたんだ?と輪に入ってきた。

土方副長が補佐官を認めた理由が聞きたくて、と口ごもる隊士に近藤は大声で笑う。
見てれば分かる、と沖田と同じ返答をすると隊士たちは食い入るように二人の打ち合いを見つめた。




「随分、早くなったじゃねーか!」

「喋る余裕が腹立ちますッ!」




舞は真っ直ぐに土方の目を見つめているが、土方は目を合わせようとしない。
そこに違和感を感じて隊士があれ?と首を傾げると、舞が足をもつれさせて後ろに倒れそうになる。
危ねぇ!とすかさず手を伸ばして支えたのを見て、ああなるほど・・・と納得したのだった。




「戦闘中に転びそうになるヤツがあるか!」

「す、すみませ・・・・・・あ、あの副長、近・・・」

「なななななななな何言ってんだ!助けてやったのに礼の一つもねーのか!!」

「ありがとうございます!」

「・・・・・・」




中学生かよ!

顔を引き攣らせる隊士達に、斉藤が無言のまま立ち上がる。
土方と舞の間に入るようにして竹刀を構えると、沖田が俺も混ぜろィ、とその後に続いた。


よく分からない戦いが始まる中、舞はするりとその場から抜けだした。
先ほど舞に声をかけてきた隊士達の視線を感じて振り返ると、





初めましての自己紹介はいらないよ
(あの副長を落とすなんて・・・補佐官!尊敬します!)
(え?あ・・・うん?ありがとうございます?)

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