ドーナツは100円セールに限る
マスドで信女とドーナツを食べていた舞が、不意に呟いた。
「恋人、欲しいな」
「・・・恋人?」
「友達から結婚しましたとか彼氏できたって報告来ると寂しくなっちゃって。私も幸せになりたいなぁ・・・みたいな」
「恋人が居ないと幸せになれないの?」
そういうわけじゃないよ、と首を振った舞だったが今まで彼氏居たことないから憧れるんだよね、と苦笑いする。
信女は口いっぱいにドーナツを頬張りながら、そう、と一瞬何かを考える素振りをすると喉に手を当てた。
「"私を恋人にするのはどうでしょう。幸せにしますよ、エリートですから"」
「ぶっ!!」
「異三郎は駄目なの?」
「い、いや、駄目とかそういう問題じゃ・・・」
エリートエリート言っているが紳士でいつも気にかけてくれている。
その眠たげは何を考えているか分からないが、たまに見せる真剣な目つきにドキドキ・・・いやいやいや!!
思わず頭をテーブルにバァン!!と打ち付ける。
信女は素早くドーナツと飲み物を避難させており、被害はテーブルにヒビが入っただけで済んだ。
どくどくと流れる血を抑えながら舞は佐々木さんにはもっとお上品な女性が似合うよ・・・と顔を引き攣らせる。
「前から言っているじゃありませんか。私と結婚すれば玉の輿だし絶対幸せにしますよ」
「信女、もう声真似はいいって・・・」
「泣かせたら異三郎でも許さない」
「それは怖いですね・・・舞さん、年頃の女性が血だらけでドーナツを食べるのはどうかと思いますが」
「・・・あれ?」
顔を上げると、眠たげな目がこちらを見ていた。
カチカチと携帯をいじりながら舞を見下ろしている佐々木に顔を青ざめさせる。
「さ・・・佐々木さんんん!?いつから!?っていうか何で此処に!?」
「今来ました。信女さんが貴女とドーナツを食べている、とメールをしてきたので飛んできました」
「そ、そうですか・・・」
「隣いいですか。信女さん、自分の分も買ってきていいので私のドーナツを適当に選んできて下さい」
「分かった」
1万円札を握りしめてドーナツを買いに行く信女を見送り、佐々木は舞の向かい側に座った。
てっきり隣に座ると思っていた舞がきょとんとする。
その表情を見て佐々木は頬杖をつくと、この方が貴女の顔がよく見えますから、と真顔で言ってのけた。
「で、先ほどの話ですが」
「へ?」
「恋人、欲しいな・・・・・・と」
「あ、あれはその、冗談ですよ冗談!」
「そうですか。ちなみに私は恋人募集中ですが」
「は、はぁ」
「どうです、まずはお試しで一週間」
「化粧品んんん!?」
私は本気です、と相変わらず掴めない表情で言うものだから舞は苦笑いする。
戻ってきた信女のトレーには大量にドーナツが詰まれていて、佐々木は信女さん・・・と呆れたような声を出す。
異三郎の分はこれ、とポンデを一つだけ差し出すと後は自分の前に置いてしまった。
一万円分のドーナツを見て舞はよく食べるなあ・・・と紅茶を飲む。
何の話してたの、とドーナツを頬張る信女に佐々木が告白していました、とあっさり言ってのけた。
「え!?今の告白!?」
「早く舞とくっついて」
「それは私も同感ですが、舞さんが中々イエスと言わないもので」
「あ、あはは・・・」
真選組所属なんですが、と苦笑いする舞に信女はじゃあ折衷案、と手を挙げる。
はい信女さん、と佐々木が発言を許可すると私が舞と結婚する、ととんでもないことを言い出した。
「いや、あの?」
「何?」
「同姓同士の結婚は認められていませんが」
「じゃあ宇宙で。・・・大丈夫、私達の邪魔をするやつは全員斬る」
「ええェェェ!?」
「エリートジョーク」
「佐々木さんんん!!確実に貴方の悪影響が出てるんですけどォォ!?」
これはよくありませんね、と溜息をついた佐々木が信女さん、と叱るような声を出す。
ふい、と顔を背ける信女の前にドーナツをちらつかせれば手ごと噛み付かれて振り払う羽目になったのだが。
それを見ていた舞はあ!と閃いたように声を出す。
「二人が付き合えばいいんじゃ・・・・・・・・・え?何この殺気」
「鈍いのも可愛いけどここまでくると呆れる」
「ええ全くですよ。まぁその鈍さに救われるものもありますが」
「え?結構いい案だと思ったのに何この敗北感・・・」
「私と異三郎じゃなくて、舞と異三郎が付き合えばいい」
「いや、私よりエリート信女のほうが似合うんじゃ・・・」
「私を押し付ける喧嘩はやめてくれませんか。いくらエリートでも傷付きますから」
いやいや信女が、いやいや舞が。
そんな押し付け合いを見ていた佐々木は、当分かかりそうですね、とポンデを口に放り込んだ。
ドーナツは100円セールに限る
(いい案が浮かんだ)
(何ですか、嫌な予感しかしませんが一応聞きます)
(舞と異三郎は結婚。で、私は舞と異三郎の愛人)
(却下ァァァ!!)
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