水溜りに足を入れるときは勢いをつけないとダメ

―――今日は買い物に行くんです。斉藤隊長、何か買ってきましょうか?


どう伝えようか迷った末、紙に茶菓子と書いた。
たまに部屋を訪れてくれる舞とお茶をするときに食べるものだ。
それを分かっていたのか、笑みを浮かべてはい!と屯所を出て行った舞。
あれからもう数時間立っていて、外は大雨暴風の最悪な天気だった。


部屋を出ると、舞さん大丈夫ですかね、と心配そうに空を見上げる山崎が居た。
ガキじゃねーんだから帰ってこ来れるだろ!と突っ込む土方もどこか心配そうに見える。
強く風が吹き付ける中、舞は傘を持っていったんだろうか。
少し考えた後、斉藤は傘を持って暴風の中へと突っ込んだ。




その頃舞は、大江戸デパートにあるカフェで時間を潰していた。
少し待てば天気も良くなるだろうと思っていたが、どんどん悪化していく。
タクシーで帰るか、それともここで待つか。
買った茶菓子がダメにならないように帰ればいいだろう、と判断しお茶を啜った。
この悪天候でデパートに避難しに来た人たちをぼんやりと見つめていると、目立つ髪型を見つける。
雨と湿気のせいで更に膨らんだアフロを揺らし、斉藤がきょろきょろと辺りを見回していた。

驚いて斉藤隊長!と呼びかけると、斉藤は舞の元へやってきた。




「どうしたんですか、こんな天気なのに・・・」

「・・・」

「そんなに濡れちゃ風邪ひいちゃいますよ?えっと、タオル・・・え?」




タオルを差し出そうとした舞だったが、斉藤は首を横に振る。
後ろ手に何かを隠しているのが見えて覗き込むと、強風で折れたらしい傘が二本あった。
・・・二本?

斉藤の顔を見ると、きょろきょろと視線を彷徨わせて舞と目を合わせようとしない。




「傘持ってきてくれたんですか?」

「・・・」

「でも折れちゃったんですね。・・・しょうがないですよ、こんな天気だし」

「・・・」

「気にしないでください。持って来てくれたのと、その気持ちが本当に嬉しいです」




どこか残念そうに首を横に振る仕草に、舞は笑って座るように促した。
折れてしまった傘を床に置くと、舞は斉藤隊長が来てくれて良かったです、とまだ手を付けていないケーキを差し出す。
じっとケーキを見つめていたがフォークを受け取ると、ぱくりと一口食べた。




「雨が止むまでお話しませんか?・・・あ、って言っても、斉藤隊長は聞く側になりますね」

「・・・」

「それでもいいですか?」




それからしばらく話をしていると、斉藤が不意に顔を上げる。
舞も顔を上げると、いつの間にか外は晴れていて斉藤が帰ろう、とジェスチャーをした。

会計を済ませて外へ出ると、舞が買った茶菓子の紙袋を斉藤が持つ。
隊長に持ってもらうなんてできません、と言ったがどこで覚えたのか分からない必殺スマイルで黙らざるを得なかった(怖すぎる)




「水溜りがいっぱいあると足入れたくなりませんか?」

「・・・」




水溜りの前で立ち止まる斉藤に、舞は濡れちゃうから入っちゃだめですよ、と小さく笑う。
お構いなしに勢いよく右足を置くと、ばしゃ、と音を立てて舞や紙袋へと雨水が跳ねた。




「ちょ、ちょっと隊長!何やってるんですか!・・・もー、私はいいですけどお茶菓子は守ってください」

「・・・ZZZ」

「ごまかさないでください!」




舞にかからない程度にちゃぷちゃぷと足を入れる斉藤に、何だか可愛いですね、と笑う。
ぐい、と手を引かれて舞も水溜りに足を入れると、跳ねた水が斉藤の足元を濡らした。
だから言ったじゃないですか!と慌てる舞を無視してそのまま走りだす。
ばしゃばしゃとわざと水溜りを踏みながら走る斉藤に、楽しいですか?と尋ねた。

斉藤はあの必殺スマイルではなく自然な笑みを浮かべており、
思わず見とれてしまった舞が足を止めると、またばしゃ、と水が跳ねる。
突然止まった舞を不思議そうに振り返っていた斉藤は、舞の顔の前でひらひらと手を振った。




「あ・・・す、すみません」

「・・・」




走り疲れたと勘違いしたらしく、今度はゆっくり歩き出す。
繋がれたままの手に舞が手を離そうとすると、ぎゅ、と握られてまた心臓が高鳴る。
ずるいですよ隊長、と言えば確信犯なのかそうじゃないのか、不自然にVサインをしてみせる斉藤に舞は苦笑いするしかなかった。




水溜りに足を入れるときは勢いをつけないとダメ
(・・・何でィ、終兄さんとデートしてきたんですかィ)
(ち、違いますよ!傘忘れたから迎えに来てくれたんです!)

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