仲良くなるには胃袋を掴むのが一番
これは、舞が真選組にやってきて間もない頃の話。
道場で隊士達と打ち合い、沖田に滅多打ちにされた舞はふらふらと廊下を歩いていた。
向かい側から歩いてきた土方が顔を顰め、総悟にでもやられたか、と尋ねてきた。
・・・鬼の副長と呼ばれるあの土方にはまだ慣れず、はい、と顔を俯かせる。
総悟相手にそれだけ動けるならいいんじゃねぇのか、と珍しく労りのような言葉をかけた土方は程々にしろよ、と言
って自室に戻っていった。
思わず副長、と呼び止めると、呼び止められると思っていなかったらしい土方が少し驚いたように振り返る。
「あの・・・何かお手伝いできることはありませんか?」
「・・・お前の分があるだろ」
「稽古前には終わらせました。迷惑じゃなければ、お茶でも持って行きたいのですが」
「・・・じゃあ頼む。ついでに軽く食えるもの持ってきてくれ」
「食堂で食べないんですか?」
「今日は忙しくてな、あまり部屋から出られそうにねぇ。俺の部屋は分かるか」
「はい」
じゃあ頼むわ、と去っていく土方の背中を見送り、一旦自室へ戻る。
道着から隊服に着替えて身だしなみを整えると食堂へ向かった。
まだ昼食前というのもあるが、食堂には誰も居ない。
奥で昼食の用意をしている女中に声をかけると、あら新人さん、と笑みを向けられて頭を下げる。
「すみません、副長に軽食を持って行きたいのですが」
「ちょっと時間かかるけど大丈夫?今こっちも手が空いてなくて・・・」
「あ、じゃあ私がやります。食材とか借りても大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫だけど・・・」
ご飯作れるの?と言いたげな顔をしているものだから、一人暮らしなので作れますよ、と苦笑いする。
じゃあお願いね、と何故かマヨネーズを渡された舞は思わず固まったが、副長さんマヨラーなのよ、という言葉に
納得した。
知り合いに白米の上に大量の小豆を乗せる糖尿病寸前の男が居るせいか、味覚が可笑しくても問題はない。
ただどれぐらい摂取するのか分からなかったため、マヨネーズをかけるタイプよりマヨネーズを使ったものを作ろう
、と上着を脱いでシャツの袖を捲った。
部屋で書類と向き合っていた土方は、舞が来ないことに舌打ちをした。
せめて茶ぐらいすぐ持ってこれねぇのか、と煙草に火をつけようとしたとき、副長、と襖越しに声をかけられる。
入れ、と言うとお盆に茶の入った湯のみと卵の炒飯(隣にはマヨネーズ一本)があった。
「遅くなってすみません。女中さん達が忙しそうだったので私が作って・・・」
「・・・お前が作ったのか?」
「た、食べられますよ!?」
「いやその心配はしてねーよ!・・・美味そうな匂いがする」
「お、美味しいといいんですが・・・あの、副長がマヨラーだと聞いたので一応これも持ってきました」
一旦書類をまとめて机の上からどかすと、舞が炒飯の入った皿を机の上に置く。
「きっと夕方には小腹が空くと思うので、その頃にまた何か持ってきます。あ、お茶も此処に置いておきますね」
「ああ」
「失礼します」
「・・・周藤」
舞がきょとんとした顔で土方を見つめる。
「お前、マヨネーズ使っただろ」
「え?・・・あ、ああ、炒飯ですか?使いました」
「何で使った」
「え、あ、えと・・・すみません!油の代わりにマヨネーズ使うと、パラパラに仕上がるんですよ・・・」
「・・・」
「ふ、副長がマヨネーズ好きって聞いたので、マヨネーズ使ったものにしようと思って・・・あ、あの、副長?」
マヨネーズをかけずに、一口食べる。
・・・美味い。
無言のまま炒飯を食べ始める土方に、舞はあの・・・と恐る恐る声をかける。
あっという間に炒飯を食べた土方が舞の方を向いたとき、舞はそこで"副長"以外の顔を初めて見た。
「美味かった。また頼んでもいいか」
「は・・・はいっ!つ、次は別のものも作ってみます!」
「・・・おう」
本人はあまり自覚がないのかもしれないが、こんなに優しく笑うなんて。
こちらこそありがとうございます・・・と思わず頭を下げると、土方は混乱しつつもあぁ、と返事をした。
「周藤、明日からの稽古は俺がつけてやる」
「え」
「・・・嫌か」
「ち、違います!むしろ光栄です!」
「俺が一本取るたびに仕事手伝ってもらう。それでいいな」
「えっ!?い、嫌・・・・・・じゃ、ないです、頑張ります・・・」
仲良くなるには胃袋を掴むのが一番
(・・・ってな訳で、舞は土方さんの胃袋をゲットしたんでさァ)
(へー・・・そういう話があったんですね)
(山崎、お前もミントンに誘えばもしかしたらイベント発生するかもしれないぜィ)
(イベント発生ってなんですか!)
(おい舞、あれはどこに置い・・・あぁそれだ、助かる)
(まあ最終段階はアレだねィ。夫婦)
(・・・あれ?いつから名前呼びに?)
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[mokuji]
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