普段喋らない人の良いとこを探すのは難しい

近藤に土方や沖田が出払っている中、舞は珍しく屯所に居た。

夕食の時間になって食堂へ向かうと珍しい人物を見つけて声をかけた。




「斉藤隊長、一緒に食べませんか?」




振り返った斉藤がこくりと頷く。
ありがとうございます、とお礼を言って自分の分を取りに行くと、その後に続くように斉藤も歩いてきた。




「今日は屯所が静かですね」

「・・・」

「あ、何食べますか?私取ります」

「・・・」

「これぐらいで大丈夫ですか?・・・あ、ありがとうございます」

「いや分かんねーよ!!」




会話に割り込んできた山崎に、舞は驚いた顔でどうしたんですか、と尋ねる。
何の会話してるのか文字だけじゃ分かんないよ!とどこかじれったそうな山崎に、斉藤は舞の皿に乗せた天ぷらを指さす。

今、舞の皿に、天ぷらを置いた。
ジェスチャーでそう伝えると、山崎は力が抜けたようにそうですか・・・と項垂れる。
私も斉藤隊長とお話できたらいいんですけど、きっと恥ずかしがり屋さんなんですよね、と笑みを浮かべた舞。
どんだけポジティブなの舞さん・・・と顔を上げた山崎は、何故かアフロの中に埋もれた天ぷらを見つけて何でだァァ!!と叫ぶ。




「唐突すぎて分かりませんよ!何が起きたんですか!」

「・・・」

「・・・夢小説だと斉藤隊長相手は難しいですね」

「いやアンタがそれ言っちゃうのォォ!?」




夕食を食べ終わり、部屋に戻ろうとした舞の肩を斉藤が軽く叩く。
どうしたんですか?と尋ねるが、相変わらず無言のままで斉藤は舞の手を引いて歩き出した。
それを見ていた隊士達は驚いた顔で、副長に連絡したほうがいいんじゃないか、と話し始める。




「いやほら、鬼のいぬ間になんとやら、だろ?」

「副長にそんな話してどーするんだよ!攘夷志士共捕まえるどころか全員ミンチにして帰ってくるだろあの人!」

「もしかして斉藤隊長、舞さんと二人きりなら喋るとか?」




慌ただしく食堂から飛び出す隊士達。
ちらり、と振り返った斉藤は何を思ったのか舞を抱えると身軽な動きで屋根を伝い、屯所を飛び出した。




「ち・・・ちょっと!斉藤隊長!どうしたんですか!?」

「・・・」

「え・・・ノ、ノート?」




どこかの屋根の上に下ろされ、斉藤は懐からノートを取り出す。

舞さんへ、と丁寧に書かれた字を見て顔を上げると斉藤はじっとこちらを見つめていた。
・・・読めということだろうか。




"舞さんへ

突然こんなことをしてしまって申し訳ないZ

普段喋ろうとしない私に声をかけてくれる舞さんにお礼を言う機会を窺っていたのですが、変な声だと思われたら嫌なのでこうした手段に出てしまいました"




そこまで読むと、斉藤は再び舞を抱えて屋根伝いに走りだす。
どこかへ連れて行ってくれるんですか?と尋ねると、こくりと頷いたのを見て私も走ります、と一旦降りた。

しばらく走ると橋が見えてきて、ひらりと屋根から飛び降りる斉藤。
その後に続いて降りると、下で両手を広げて待っている斉藤が見えて舞は危ない!と叫ぶ。
巻き込んでしまったかときつく目を瞑ったが、あっさりと受け止められて地面に下ろされる。
怪我はないのか、と言いたげにじろじろと舞を見るものだから、舞は呆気にとられて何やってるんですか・・・と呟いていた。




「・・・?」

「わ、私だってこのぐらいの高さなら大丈夫ですから!斉藤隊長に何かあったら―――んぐ」




口を手で覆われ、黙るようにジェスチャーされると手を引かれてまた歩き出す。
橋の周りに建物や街灯はほとんどなく、真っ暗な中月明かりに照らされる斉藤のアフロがよく目立った。

不意にぐい、と引っ張られて下を見るようにジェスチャーされる。
覗きこめばぼんやりと光るものがいくつも見えて、その内のいくつかはふわりと飛んでいった。




「・・・蛍?」

「・・・」

「これを見せるためにわざわざ?」




斉藤は舞に渡したノートのページを何枚かめくる。
真っ暗で読めなかったため後で読みますね、と言うと斉藤はこくりと頷いて背を向けた。
屯所に戻るつもりなのだろう。

待ってください、と手を掴むと物凄い勢い振り返る。
本人にとっては普通に驚いた顔なのだろうが、正直血走った目は恐ろしかった。




「も・・・もうちょっと、見て行きませんか?せっかく来たのに勿体無いですよ」

「・・・」

「・・・ありがとうございます。蛍なんて見たの久しぶりです」

「・・・」

「私、隊長のこと知りたくて色々話しかけて、迷惑だったんじゃないかって思ってたから・・・連れてきてくれて、ありがとうございま、・・・?」

「・・・ZZZ」




立ったまま眠る斉藤に溜息をつくと、ノートを懐にしまって斉藤の肩を叩く。
ぱち、と目を開けた斉藤が素早く舞に手を伸ばす。
片腕で抱き締められるような体勢になり、舞が震える声で斉藤隊長、と名前を呼ぶ。
口元の布をずらし、斉藤が喋ろうとした瞬間―――




「はーい、そこのイチャついてる二人〜、免許証とか持ってる?この辺人斬りとか出るから危ないんで・・・」

「お・・・沖田さ・・・」




沖田の持っていた懐中電灯にとんでもない場面が照らされる。
一瞬黙った沖田だったが、すぐにメガホンを取り出して終兄さんが舞さん襲ってますぜェェェと絶叫した。
夜中なのにィィ!と慌てて沖田に訂正をしようとした舞だったが、斉藤の指が何かを掴んでいる。
そっと顔の前にまで持ってくると、ぼんやりとした光が飛んでいった。
・・・舞の傍を飛んでいた蛍を捕まえて、近くで見せたかったらしい。

ドキドキした自分が恥ずかしい、と顔を俯かせると斉藤は蛍を逃したあと、舞の手を掴んで自分の胸に当てる。
無表情からは想像できないほど心臓が早く、舞は顔を赤らめて十分伝わりました・・・と蚊の鳴くような声で言ったのだった。




普段喋らない人の良いとこを探すのは難しい
(終・・・テメェ舞連れ出してイチャついてたってどういう事だ?)
(・・・ZZZ)
(起きろォォォ!!)

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