エリートの流儀・伍

爆風が止んだのを確認し、舞を抱いてプールから上がる。
飛び込んだときにモノクルがどこかへ行ってしまったが気にしていられない。
ぐったりとしたまま動かない舞に大丈夫ですか、と声をかけるが反応がなかった。

貸した上着を脱がして、瓦礫を足でなるべくどかす。
水中で意識を失ったのか動かない舞に、一応失礼します、と断ってから人工呼吸を始めた。




―――唇に何か触れてる?暖かいなあ・・・
舞がぼんやりと目を開けると、ぼやけそうなほどの至近距離に佐々木の顔があって、




「!!!!!」

「ああ、目を覚ましましたか。良かっ「げほっげほっ!!」




プールに飛び込んでからあまり記憶のない舞は飲み込んでしまったらしい水を吐きながら、必死に記憶を手繰り寄せる。
佐々木はその背中を擦りながら、ようやく来たヘリに手で合図した。
舞を抱き上げるともう少々の辛抱です、とぐったりとしたままの舞の頭を撫でる。



地上にヘリが着くと、舞!という叫び声が聞こえて佐々木は舞を抱きかかえたまま振り返る。
こっちに駆け寄ってくる土方の姿を確認し、佐々木はご苦労様です、と軽く頭を下げた。




「舞はどうした!?」

「此処に居ますよ。色々あって水中で意識を失ったので、念のため病院に連れて行きます」

「・・・分かった」

「副長・・・」

「!・・・無事か?」

「はい。・・・佐々木局長が居なかったら大変でした」




そうか、と返事をした土方は背を向け、舞を頼む、と言って現場に戻っていった。
佐々木は手配しておいた救急車に舞を乗せると自分も乗り込み、病院へと向かう。


軽い治療を終えた舞がロビーへ戻ると、いつの間にか白い隊服に着替えていた佐々木が歩いてくる。
舞は待っててくれたんですか、と申し訳無さそうに頭を下げるとそれは私の台詞です、と返された。




「え・・・な、何で佐々木局長が頭下げるんですか!」

「試すような真似をして申し訳ありません。今回の爆撃テロ、我々エリートは大江戸ホテルが狙われるのを知っていました」

「・・・え」

「生憎爆弾の場所までは特定出来ず、このような事態になってしまいましたが避難の準備と階層の特定は出来ていたため、主に我々が水を被ったのとホテルの修理代ぐらいで事は済みました」

「な・・・は、あああぁぁ!?」

「貴女が爆弾を持って走りだしたときは、さすがの私も焦りましたが」

「は・・・はは、もういいです・・・」




ぐったりと座り込む舞に合わせて佐々木もしゃがみ込む。
怪我人が居ないならそれが一番です、と笑みを浮かべる舞に佐々木はそうですか、と手を取る。




「せっかく私のために準備してきて下さったのに、台無しにしてしまいました」

「そんな、いいんですよそんなの気にしなくて!」

「ですが・・・」

「・・・お詫びに、今度は安全な場所でお食事ディナーに誘って下さいね」




ふんわりと笑みを浮かべる舞に、佐々木は握った手を少し上に上げる。




「・・・舞さん」

「はい」

「結婚しましょう」

「は・・・・・・・・え!?」

「今まで金と権力とドーナツにしか目がない女性しか見てこなかったのですが、貴女は違う」

「ドーナツ・・・?」

「エリートの名に誓って貴女を幸せにします」




混乱していた頭がようやく状況を理解したとき、舞はキャパオーバーで再び気絶した。
力を失って首が下に向き、佐々木は気絶したと承知しているにも関わらず返事はYESですか、と笑みを浮かべたのだった。




エリートの流儀
(舞・・・テメェこれはどういうことだ?)
(おはようございます副長。・・・何がですか?)
(おはようございます。結婚式の式場はどこがいいですか?)
(誰がテメェの嫁になんざやるかァァ!!帰れクソエリート!!)
(舞さんは昨日プロポーズしたらイエス、と言ってくれたのですが)
(言ってない言ってない!!)

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