エリートの流儀・四
大江戸ホテルの最上階には、エリート御用達のレストランがある。
待ち合わせのときより緊張しなくなっていた舞は携帯の電源を切るとバッグへしまう。
その間に佐々木は何やら店の者と一言二言話していた。
「佐々木様ですね。こちらへどうぞ」
案内されたのは個室で、二人になるなり佐々木は楽にして下さって結構ですよ、と舞のために椅子を引く。
そんなことされたら楽にできないじゃないですか・・・と苦笑いしながら座る舞だったが、窓から見える夜景に思わずすごい!と声を上げてしまう。
「ただ技術が発展しただけじゃなく、夜景も綺麗になってるんですね・・・星が見えないのは残念だけど・・・、?なんですか、異三郎さん」
「・・・いえ、表情がころりと変わったから驚いただけです。お気になさらず」
「・・・そうですか」
「夜景、気に入って頂けたようで何よりです」
「・・・笑ってませんか?」
「笑いそうです。エリートとしたことが、つい声を上げて笑いそうです」
夜景を見てはしゃぐ舞への当て付けだろうか。
舞はむすっとした顔で佐々木を見て、今日私を呼んだのはどういう理由ですか?と尋ねる。
「特に理由なんてありませんよ。・・・強いて言うなら、貴女がどういう人なのか気になりまして」
「・・・」
「あの真選組副長補佐・・・中々優秀だと噂を耳にしましてね。エリートである我々にも引けをとらないと、とある雑誌で取り上げていたものですから」
「なるほど。・・・で、どういう人間かは分かりましたか?」
「いくらエリートでもそれに答えるのは難しいですね。・・・少女、でしょうか」
「答えてるじゃないですか!・・・少女って・・・もうそんな歳じゃないです」
「そういうところが少女のようです。まあこれ以上貴女の機嫌を損ねてはいけないので、エリートオススメのメニューを」
突然爆音がして、大江戸ホテル全体が大きく揺れた。
大江戸ホテルの何階かで爆発が起きたらしく煙が立ち上っていくのが見える。
悲鳴が聞こえてくると火災報知機が鳴り響き、佐々木は溜息をつくとどうやらディナーにありつけそうにありませんね、と舞を見た。
お客様はこちらへ!と誘導する大江戸ホテルの人間と、パニックになってあちこちに走り回る一般人。
佐々木と舞は素早く個室を出ると、佐々木はホテルの人間に警察手帳を見せて誘導を始める。
舞は携帯で真選組に連絡を取り、近くに居た警備員に何があったんですか!と警察手帳を見せた。
「恐らく時限式の爆弾で・・・その、爆発の直前に犯人と思われるテログループから大江戸ホテルを爆破すると予告の電話が・・・」
「分かりました。他に爆弾がある可能性は?」
「わ、分かりません・・・」
舞はそのままレストランを飛び出し、エレベーターを見る。
万が一エレベーターが止まったら困る、とすぐに身を翻すと佐々木にぶつかった。
「何をやっているんです」
「逃げ遅れた人が居るかもしれないので、下の階に行きます」
「・・・分かりました。私も行きます」
「そんな、佐々木局長は避難して下さい!何かあったらどうするんですか!」
「我々は、警察です。市民の安全を守るのが第一」
「・・・失礼しました。行きましょう!」
階段の方へ走り出す舞に続くと、再び爆発が起きて大きく揺れる。
ぐらりと体勢を崩した舞を素早く支えると、舞は突然ヒールの踵を思い切って折った。
これで少しは動きやすくなるだろう。
佐々木は感心したようにそれを見たあと、すぐさま携帯を取り出して全エリートに告ぎます、と見廻組への連絡を取った。
階段を駆け足で下りた舞は、誰も取り残されていないかくまなく探し始める。
その間にも火の手は上にも下にも伸びており、佐々木はすぐさま舞の手を掴む。
「屋上に行きます。ヘリを手配しました」
「で、でもまだ人が残ってたら・・・!」
「ここの従業員も凡人ばかりではないでしょう。避難はすぐ済ませているはず。・・・それに、貴女に何かあっては困ります」
有無をいわさず舞の手を引き、再び階段を駆け上がる。
レストランにある非常口の扉を開けると、屋上へと続く階段が見えた。
屋上へ出ると、ブルーの照明で照らされたプールがあった。
煙が立ち上るのが見え、佐々木は舞の手を離して下を除く。
パトカーに救急車、消防車が救助活動に当たる中、ヘリが到着するまで一息つけそうだ。
下で火災が発生してるとはいえ風は冷たく、佐々木は上着を脱ぐと舞の元へ行き、肩からかけてやる。
「佐々木局長・・・」
「そんな格好でいたら風邪をひきますよ。・・・しかし爆弾テロとは」
「ありがとうございます。・・・何で大江戸ホテルを?」
「大方幕府の重鎮が宿泊でもしていたか、天人狙いかのどちらかでしょう」
「・・・そう、ですね・・・」
「・・・」
無言が続き、舞は上着に袖を通すと立ち上がって辺りを見回した。
下から避難が完了しました!という声が聞こえて安心した舞は、近くのベンチに座り込む。
座ったときに足に何か辺り、覗きこんで青褪めた。
0:00:16
言葉にするよりも先に、それを引っ掴んで駆け出す。
突然の舞の行動に振り返った佐々木はすぐさま投げなさい!と叫ぶと、舞は非常ドアを開けて爆弾を投げる。
ドアが閉まるのも確認せずに佐々木の元へ走ると、その手を引っ張ってプールへと飛び込んだ。
エリートの流儀
(副長!屋上で2回目の爆発が・・・)
(うるせェ見れば分かる!!)
(あああ舞!舞は無事なのか!?)
(局長ォォ!!火の中に飛び込むのはやめて下さいィィ!)
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