第六章
一本道
文久三年十二月。 連日降りやまない雪は、京の町を一面白銀に染めている。
「ったく、さみぃー!」
平助が顔を顰めながら手を擦り合わせる。こんなに寒くては、いざ刀を掴む時に手が動かなくなってしまいそうで困る。 昨年の冬を乗り切った綾ですら凍えるようなのだから、初めて京の冬を越す平助は尚更であろう。 綾は昨年驚いた自分を思い出して苦笑した。
「京の冬は厳しいからね」 「話には聞いていたけど、実際味わってみると堪えるな。けど、お前は平気そうじゃん」
平助はしかめっ面で綾を見た。確かに震える平助に比べ、彼女は平然としている。 同じ場所にいるとは思えないほどだ。
その指摘に綾は呆れて溜め息をついた。
「俺が平気じゃなかったらおかしいよ」 「は?なんで」 「京の前、どこに住んでいたと思うんだ」
言われてみて、ようやく平助は思い出した。 綾は容保が京都守護職になる前、会津に住んでいたのである。 会津には行ったことがないが、東北にあるというだけで極寒だと容易に想像できた。
納得したが、やはりそれでも真横で平気な顔をされると恨めしい。 平助は大げさに息を吐いた。
「俺も慣れるかなぁ」 「慣れざるを得ないでしょ」 「くそ、他人事だと思ってさ」 「だって本当に他人事だからね」
綾が軽く笑うと、平助は腹が立つ!とわざとらしく地団太踏んだ。 最近ではこうして二人で軽口を叩くことが増えた。距離は大分縮まった。
八番組はおろか他の平隊士たちの間でも、組長と伍長の仲が一番良い組み合わせは、藤堂平助と近藤雪之丞だと認識されている。 二人が和やかな関係のためか、隊内の空気も一番良い。 しかも平助と雪之丞、二人とも新選組きっての剣客である。斬り合いになれば頼もしい二人組だ。 実際はまだ大きな斬り合いに発展していないし、依然綾は人斬りをしたことがない。 それでも隊士たちに慕ってもらえるのは素直に嬉しい。
「巡察が終わったら、汁粉でも食べに行こうか」
綾が提案すると、平助はパッと顔を輝かせた。 たまに元服済みなのか疑いたくなるほど、平助は素直な反応を見せる。
「それいいな!汁粉食って、ついでに酒買って帰ろうぜ」 「うん、夜は俺の部屋で呑もうか」 「よし、そうと決まればとっとと巡察終わらせようぜ!」
現金な平助に、後ろについていた平隊士たちも思わず笑みを零す。 皆は組長の為に、自然と速足になった。
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