煌めく行燈と三味線の音、赤や緑の華やかな光が眩しい。 あまりにも日常とかけ離れた光景に、綾はただただ驚いていた。
原田と平助の馴染みである角屋の座敷に通された。 遊び慣れた原田が薦める店とだけあって、値段の割には小奇麗で良い店だ。 初めて島原に入った綾は物珍しそうに辺りを見渡した。
円状に座っていつもより幾分か豪華な肴を前に、酒を手にした。 綾の隣に座った平助は、お膳を目にして歓声を上げる。 その素直な反応に思わず一同は苦笑した。
「失礼しやす」
すっ、と襖が開いて豪奢な着物を着た遊女が姿を現した。 呼んだのは気配りの行き届く原田の配慮らしい。 乱れ許さぬほど綺麗に結いあげた豊かな髪に、艶やかな出で立ち。 絵巻から抜け出したような浮世離れした美しさ。 綾は同性ながら思わず見とれた。
部屋の中に入ってきた遊女は二人で、まだうら若いお付きの禿が四人。 遊女は天神の位につく、島原でも中々の身分の者だという。 座敷に並び、二人は深々と一礼した。
「本日はお招き、おおきにどした」
片方が笑んで言えば、もう一人の方も微笑んだ。
人数分ではなく二人しか呼ばなかったのは、天神身分を呼んだから予算が足りないのだろう。 もとより本日は山南のための席である。 遊女のうち一人は原田と平助の間に、もう一人は山南と沖田の間に腰掛けた。 どちらとも接していない綾は、山南側についた遊女に顔を向けた。
「明里と申しやす」
遊女はそう言って一礼した。 明里、という遊女は綾とあまり歳が変わらぬ、少しあどけなさを残した面持ちをしている。 山南は柔らかく微笑んで頷いた。
「山南敬助です。明里さんは長く島原にいらっしゃるのですか?」 「はい、そうどすな。座敷に上がってもう五年ほどになるでしょうか、とにかく長くやらせてもろうていますな」
人当たりの良い山南と明里は和やかに会話を始めた。 流石に遊女は慣れているとだけあって、随分な聞き上手である。 その上博識な山南は雑学を織り交ぜながら話すので面白い。 酒の力もあってか、ここ最近では見ることのない饒舌な山南がそこにいた。 綾は感心しながら二人のやり取りを見ていた。
「雪之丞くん」
沖田は小声で綾を呼び、小さく手招きをする。 目配せで場を離れるよう合図された。 綾は慌てて立ちあがると、沖田と共に部屋に隣接している縁側に出た。
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