五月雨 | ナノ










沖田が木戸に載せられ運ばれていくのを、綾は静かに見送った。
平助は先ほど千鶴が付き添って既に運ばれた。
怪我をした他の隊士も誰かに肩を貸されたり、木戸に載せられていたはずだ。
綾は視線をそのまま一つの木戸に向けた。


「奥沢…」
「左之達が乗り込んだ時には、既に事切れていたそうだ」


いつの間にか傍にいた斎藤が言う。
淡々としているのにどこか悲しみを含んだ声音だった。
奥沢は綾と同じく伍長だった。気の良い男で冗談を言い合ったものだ。


裏口を固めていた奥沢が死んだ。ということは取り逃がした吉田が殺したのかも知れない。
綾は眉を顰めた。自分が、取り逃がした。


「斎藤さん」
「どうした」
「私、強くなりたい」


綾は刀を見る。家茂に貰った大事な南紀重国は血に塗れていた。


「強くなりたいんです」


強く、誰よりも強く誰にも負けないように。
もうこんな風に誰かを死なせてしまわぬように。誰かの負担にならぬように。


斎藤はただそうか、とだけ言い、綾の頭を撫でた。
その優しさが苦しくて綾は唇を噛み締め、必死に涙を堪えた。


「では行くぞ!」


近藤の晴れやかな声が池田屋の前の通りに響く。
意気揚々と歩み始める面々の先頭に靡く誠の旗。
朝日に照らされた赤い旗は、綾の胸を詰まらせた。


「綾」


斎藤の呼びかけに振り向くと、彼は穏やかに微笑んでいた。


「肩を貸す。行くぞ」
「はい!」


右腕を斎藤に回して綾も歩き始める。
相変わらず左肩には激痛が走ったが、誇らしい気持ちが広がっていった。










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