沖田は馬上から辺りを見渡した。もうすでに日が昇って時間が経っているからか、街道には人が溢れている。 その胸中は複雑だった。 山南が見つかれば良いと思っている。無事が確認出来れば素直に嬉しい。 反対に、見つからなければ良いとも思っている。沖田も、山南を連れ戻したくはなかった。 土方に命じられた時、初めは何の冗談かと思った。 この男はどこまで卑劣なのだと、怒りさえ湧きかけた。 しかしそんな沖田が真意に気付いたのは、ひとえに近藤の瞳のお陰だった。 山南を死なせたくない。それは共通の想いだが、一方で新選組の権威を失墜させるべきでないことも解っている。 例外を作れば組織は崩壊する。総長だからと許す訳にはいかない。 特に現在、伊東派の動きが活発化している。伊東は参謀である。もしここで山南を許せば、伊東が仮に脱走を企てても手も足も出なくなってしまう。 だからこれはギリギリの攻防なのだ。 すなわち、探したけれど山南は見つからなかった、ということにするしかなかった。 不意に立ち止まり、ぐるり、と辺りを見渡した。 馬上から眺めているから、探し出せていないところもあるだろう。だがこれでいいと思っている。 沖田自身としても、山南を見つけたくなかった。 しかし、すぐ隣で気配がして、沖田は凍りついた。 「やはり君が来ましたか、沖田くん」 「山南、さん…」 振り返った先にいたのは、いつものように穏やかに微笑む山南だった。 顔を顰めた沖田と対照的に、山南はどこまでも優しい面持ちであった。
続
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