あれから数ヶ月が経った。レンと過ごした日々は今でも色褪せる事無く繊細に思い出す。女性に対して軽々しいレンではあったが、真斗に対する扱いはとても愛おしげであった。だけどあの頃に戻れる事は一生無くなってしまった。それは一通の結婚式の招待状から思い知らされた。もう二人が戻る事は無いのだ。


「真斗、…別れよう」


真斗とレンの関係が崩れるのはとても呆気なかった。目の前の人物の切なげな表情が真斗の感情を煽る。昔から御曹司で、互いに羨ましがって嫉妬していた仲は何時の間にか恋仲にまで達した。キスもした。ハグなんて照れくさかったけど沢山した。そんな楽しい日々がレンの一言で終止符を打たれようとしていたのだ。


「…どうしてだ」

震える声で聞く。きっと今の自分は表情は固まっているだろう。それ程真斗には余裕が無かったのだ。やっとで良好な仲になれ、互いを愛す事が出来たのに。そう思うのは自分だけだったのか。目頭が熱くなるのを感じた。


「っ、違う!俺だって別れたく無い…でも仕方が無いんだ……ッ」
「……」
「…悪い。余裕が無いんだ」
「…、」


レンの何時ものポーカーフェイスは何処へ行ったのだろうか、眉間に深い皺を寄せ、苦虫を潰した表情を浮かべる。真斗はその表情に目が行ってしまう。もう喉の所まで熱いものが込み上げて来ているのに。これ以上は聞きたく無いのに。聞いてしまう自分が居た。

「…兄貴がさ、俺に許嫁を出して来た。”レンも一人の女性を愛せるように、そして神宮寺家の跡取りを生み出すように”ってね」
「…そうか」


レンは最近やっとで家族と和解し合ったばかりであった。昔は悪かったらしいが、今のレンにとって家族はなくてはならないものなのだと話しを聞く度に真斗は思っている。そんなレンにとって、家族を取るか自分を取るかという選択肢は決まっていたのだろうか。


「っ、……幸せにな」
「―ッ、…あぁ。お前も幸せにな、”聖川”」

言いたくは無かった。でも言わないといけない。この言葉を出すだけで胸が凄く苦しい。心の中では思っていない事を言わなければいけない事がどれ程辛いものなのか理解した気がした。レンの呼び方が再び前の呼び方に戻った瞬間、心臓を貫く様な痛みが広がった。
そしてこの場に居るのが耐えられなくなり、真斗は終わりを告げる。

「……ッ分かっている…用件はこれだけか?なら俺は行くぞ」
「…あぁ」


レンに背を向け歩き出す真斗。レンは嗚咽が出そうになるのを抑えて消えかかった声で呟いた。「愛している」と。その言葉が真斗に聴こえる事は無かった。


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ykr様より5000Hit企画でいただきました!
何回読んでも飽きないですね!素敵過ぎる…

ありがとうございました!

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