あの、絶望の季節。二度と同じ事は繰り返さない。そう誓ってあの人と決別し、戦うことを選んだ。


   滴る汗が気持ちいい、苦しいけれど辛くない。新しい居場所は黒子にとって居心地が良かった。信頼のおける先輩達と相棒。殺伐とした空気は一切なく、協力し合いながら、みんなが一丸となって勝利へ向かう姿勢。黒子が一度失ったものが、誠凛高校バスケ部には詰まっていた。不思議なくらい充実した毎日。あの夏の日から卒業まで、空虚の中に身を委ねていた頃が嘘のように。

   ここに来て、良かった。心置きなく、彼らを倒せる。帝光中学で過ごした3年間、イヤなことばかりではなかったにせよ、不快感は拭えないようだ。それもこれも、あの人のせいだと黒子は奥歯を噛み締める。頂点に君臨し、全てを支配する、赤司征十郎。ふたりは、たいして仲が良かった訳ではない。つかずはなれず、微妙な距離感。天と地、不変の上下関係。赤司と黒子の間柄を正しく表現するのは単純明快なようで些か難しい。真っ向から対立する、絶望から助けられた記憶と絶望へ突き落とされた記憶。どちらを海馬の奥へ残すべきなのか。それすらも決めかねたまま、時間は刻刻と過ぎ、

「…………元気でしょうか、赤司君」

今日も睫毛に触れながら、遠く離れた背中の彼を思い出す。記憶の削除、それだけはどうしてか選択肢にはおかれていなかった。

「黒子! 休憩終わりだぞ!!」
「……はい、今行きます」









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