7.


   たいせつなたいせつなたからものは、だれかにぬすまれないように、ひっそりかくさなければいけないよ


   知ってるよ。キミが姿を隠して、ひとりぼっち苦しんでいること。特殊な才覚を見込まれて一軍に上がっても、そのレベルに見合う体力や技術は大幅に不足。他のメンバーとの自力の差は、大きくかけ離れたものがある。どんなに頑張ってもカタツムリのように微々たる距離しか前進せず、ほんの少しずつしかその差は縮まらない。特異な存在、周囲の人間に中々馴染めなくて、努力を重ねても中々実力がつかなくて、心が折れてしまいそう。

   時折中庭の隅にある木陰で、ひとり悩んでいる黒子テツヤ。キミを見つけるのが誰よりも上手い俺は、その秘密を自ずと知り、そっと見守っていた。声をかけなかったのは、キミがそんな姿を誰かに見られたくないと、気付いていたからだ。これまで彼が泣いたことは、一度もない。いつもどこか遠くを一点、ボンヤリ見つめているだけ。その一点の正体までは、さすがの俺も推測出来ずにいたのだけれど。見つめられているそれが、うらやましいと不躾なことを思っていた矢先、一粒の雫に時を止められる。

   ポロリ、初めて見た黒子テツヤの涙は、とても綺麗で、言葉を失った。ポロポロポロポロ、透明な宝石が大きな瞳から生まれては消えて。美しいのに、心が痛む。これ以上はもったいないから、流してはいけないよ。俺がそのかなしみを止めてあげる。

   悲嘆にくれた顔を無理やり胸に押し付けて、思わず抱き締めてしまったが最後。心臓に直接あの子を感じて、ドキドキズキズキ、まるで食われているかのように、痛い。千切れる、心が引き千切れる。誰よりもバスケを愛し誰よりも努力しているのに、中々報われないこの子がかわいそうでかわいそうで。自分が見つけたとびっきりの原石、このまま光らずに捨てられる訳にはいかない。たとえ誰がキミを捨てても、絶対に俺は捨てないけれど。俺が見出して育てた可愛いキミの為なら、俺は何でもする。愛を持って、厳しく辛辣な鬼にもなるし、慈悲深く優しい母にもなる。

   大丈夫だ、と繰り返しながら泣きじゃくる背中をゆっくりさすれば、だんだんと落ち着いていく呼吸音。傷ついて弱った小さな生き物が、少しずつ力を取り戻していくように。ジワッとこみ上げる、あたたかな気持ちに、ひどく戸惑いを感じる俺は一体どうしたのか。この手が微かに震えていること、キミは気付かないでいて。

   赤い頬に、水滴の痕が痛ましい。ようやく泣き止んで目元を真っ赤にしたあの子は、


「あかしくん、ありがとう」


やっと、笑った。降り続いた雨が止んで、太陽のような蒲公英が俺に向かって花開く。

   あぁ、この子の笑顔、誰にも見せたくない。俺だけが、僕だけが、見つめていたい。僕だけが、テツヤを、


“やっと、だね”


   心の奥、知らない何かが芽生えてしまったこと、気付くのはいつかの赤司征十郎だ。



涙のあとにあの子の笑顔 / 雨のち晴れ、いずれ嵐










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