届かない思いよ、今そこに… | ナノ


「やあ、幽くん。」

その時の臨也は微笑んではいるものの普段よりか上手な笑みではなかった。その発端は今、折原の目の前にいる無表情な平和島幽の兄である平和島静雄。臨也の方も、静雄には本気ではなかったし遊びと同意してやっていた筈だった。それでも、声とか名前までも出すな喋るなと口を開くなと言われたら なんの為の行為なんだ と 言いたくなるのも無理はない。ショックも受けるものだ、それでも臨也さんはそれを選んでしまったのだろうなと、静雄の部屋に盗聴器をつけていた幽は思った。

「臨也さんは、気付いていて話しをかけてくるんですか?」

これは、只の興味本位と頭の中で割り切りながら小さな声で呟いた幽に

「誰だって、気付く。静ちゃんくらいだよ、鈍ちんはさ。」

まるで慰めて欲しいと言っているような瞳をする臨也に、多分俺が兄さんと同じ血が流れているからだろう、だからそうやった瞳を寄越すんだと思う、それでも素直に言葉を発しないのは彼の中に残っている少しのプライドだろうなと幽は考えた。
「あなたさえ…よけ、れば」
素直に言わないのは幽くんに迷惑がかかる、困ってしまうそんなに甘えてはいけないと分かっている、そんな事をひたすら考えていると、彼がそのことを読み通ったのかは知らないが、承諾をしてきた。そのことに臨也は間抜け極まりない言葉を放つ。

「は?」

人にここまで感情をむき出しにしたのは初めてかもしれない臨也は、幽のことをそこまで信頼していたのかも分からなかった。
幽は自分の愛車に臨也を放り投げた。どさっと音はしていても思い切り振り落とされた訳では無く、優しく置いた。

「君は、安心する。表情がない分、読めないからね。だから楽なんだ何も思わなくて、考えなくてすむ。」
最低な人間だ。いくら血が繋がっているからと言っても、相手は年下だ。はあ、とため息をついてから欲がありすぎるのかなと自暴自棄になりつつあった臨也は幽の顔を見た。

「そうですか。俺は表情を表に出しませんし、感情もないです。それでも、臨也さんは自分を殺し過ぎているということは理解できます。大切にしてください、とも思います」

あはは、何を言うんだ君は。こんな風に嘲笑ってやりたかった。普段の自分なら出来たことが今の自分には出来ていない、臨也は自分自身に嫌悪感を抱いた。
幽が次の言葉を発する前に、自分の唇を相手の唇に押し付ける。しつこいキスではなく、軽く触れるだけのキス。
静雄と身体だけの関係を持ちたいと言ったのは臨也、止めたいと言ったのも臨也。自分勝手に聞こえるだろうが全て臨也がいけない訳ではない。臨也には少しでも愛が欲しかった。それが例え同情だったとしても。それでも静雄は、与えてはくれない。臨也と静雄の事後は、臨也にとって酷いものでしかなかった。
後処理は、わざわざ新宿まで帰ってから自宅で。そのまま自宅で寝てしまったときは、腹を下したこともある。思い切り激しく乱暴に抱かれても眠気を殺して、動かない足腰も無理やり引き摺りながら自宅へ行く。もう、そんなのは嫌だった。自分から誘ったのは良いのだが、ここまで静ちゃんが極悪非道、どSな最低男だとは思わ なかったな。
「何故、あなたはそこまで…するんですか、」

幽は、臨也の冷え切った体を抱きしめる。自分の温もりを与えるようにぎゅっと強く抱きしめる。

「俺は、何もしていない。こうやって幽君に慰めて貰っている上にドタチンや新羅にも甘えている、悪いとは思っているよ。こんな形でしか俺は人を信頼しないんだからね。それでもさ、静ちゃんの中の俺は、何にも縋らない強いままでいたい、んだ。」

馬鹿ですね、本当に馬鹿、です 路地裏に止めていた車の中で響いた優しい声音とその主に纏わりつくように腕を相手の首に回している臨也がひたすら泣いていた。声を出してではなく、心の中でひたすらに。



(幽くんは優しすぎる。…君だって静ちゃんが好きなんじゃないか)

(可哀想なお人。助けたい、こんな臨也さんは見たくない、気がする。兄さんは、こんなに臨也さんを嫌いなんだ、ろうな。)



届かない思いよ、今そこに…/0524
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