心境変化愛故に | ナノ





今日は、兄さんとの楽しみな二人だけの旅行だった。何故、過去形なのかと言われれば答えは一つ。邪魔がいるからとしか言いようがない。その邪魔者を兄さんはノミ蟲だと言うが、どちらかと言えば害虫だと思う。毒虫とか人間の害に値する蟲。本当にこの人は性格が悪い、顔は多分綺麗なんだろうけど。兄さんに比べれば月と鼈だ、それなのに兄さんにべたべたと近付いて構って貰っている。構うというよりも殴られている殺されかけていると言った方が正しいのだが。

「ねえ、幽くん。」

「何ですか、害…臨也さん。」

ずっと考え事していた為に臨也さんのことを害虫と呼びそうになってしまった。この感情は、この人に会ってから初めて感じた怒りなのかもしれない。この感情を覚えたところで何にもならないんだろうけど。
とりあえず、臨也さんと言っておこう。

「君さあ、本当に性格悪いと思うよ、俺なんかよりも」

「いえ、臨也さんには勝てない、です。それより、何故貴方が此処にいるんですか?今日は兄さんと二人きりの旅行だった筈ですけど。」

久しぶりにこんなに喋ったと思う。あまり、人と関わりたいとは思わないから尚更だろうけれど。大切な一人しかいない兄さんが要るのなら俺には何もいらない。そう思っていた筈なのに、兄さんよりも臨也さんのことが気になっている自分がいた。

「あはは、まあまあそんなに怖い顔しないでよ。一応アイドルなんでしょう?愛想笑いで良いからもう少し笑顔になってくれると俺的に嬉しいんだけど…ねえ、」

「今は、羽島幽平ではなくて平和島幽です。それと、臨也さんに愛想笑いでも笑いかけなくて良いと兄さんに言われましたから。」

兄さんは無理強いはしない。俺が臨也さんに会ったときに見せる表情がとても悪かったのを知っているからだ。その時の兄さんは、「幽が人を嫌ってるのなんて珍しいな、あいつごときに無理矢理、顔作らなくて良いからな」こう優しく言ってくれた。幼児にでも言うかのように、膝を少し曲げて俺の顔を覗き込むような体勢をしてくれた兄さんは本当にかっこいい、

「あれ。幽くん、どうしたんだい?」

兄さんのことを考えていれば、つまらなくなった臨也さんが寝ている兄さんで遊んでいた。何してるんですか、兄さんに触れないで下さいと言おうとすれば、臨也さんにコレ似合ってるよね。と俺の方にいつもの湿気った笑顔ではなくて、朗らかな微笑みをしてくれた。あ、この人がきゃーきゃー騒がれていた理由が分かったなあとかそう思いながら、臨也さんが指差した先を見る。

「かわいい…」
兄さんの顔が外国系のお人形みたいに薄く化粧をされていた。そして、赤と黒のリボンで髪を結わされている。その姿に兄さんの可愛らしい子供のような笑顔が合わさっている。あ、凄く可愛いなあ。

「アハハ…そんな顔をして。君にもやってあげようか?」
「いえ、興味無いです。それより何故、化粧がそんなに上手なんですか?」
「あ、気にしないでよ。それは」

この人にでも言いたくないことでもあるんだなあとか頭の隅で思いながら、兄さんの顔をまじまじと見ていた。
「臨也さんは兄さんのこと、可愛いと思いますか?」

「静ちゃんを?…全く思ったこと無いね。幽くんは、可愛いと思ったことはあるけどね」

臨也さんの目は見たことも無いほどの真剣な表情で言っていた。ああ、この人は、兄さんのことが好きでちょっかいを出しているのかと思っていたが本当は違ったんだ。臨也さんが興味を示しているのはなんら普通の自分、いや普通という言葉は合わないかもしれないけど俺なんだなあ。と他人事のように思った。
臨也さんのことは面倒くさそうな人だなあと初対面時から印象は最悪だった。なのに、今は、臨也さんのことを考えている。

ここから俺は臨也さんを気になり始めた。



心境変化愛故に/0417
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