もし、君が | ナノ



眠れないときは、何をすれば良いのだろうか。
羊を数える?馬鹿言うな。俺は餓鬼じゃねえ。餓鬼じゃねえなら自分で解決しろ?うるせえ、んなもん出来るならとっくにやっている。ああ、本当にどうしてくれようか。
睡眠薬とか欲しいなあ、でも効かないんだろう。こんなにも眠れないとか何年ぶりだっけか。まあ、そんなことはどうでもいい。
早く俺を寝させてくれよ俺自身よぉ。流石に自分自身にキレることはないが腹は立っている。

「…くそ、寝れねえ」
ぽつりと声を出してみても睡魔は押し寄せてこない。ふざけんじゃねえ。
俺は疲れてんだ。眠い筈なんだ!目だって、しょぼしょぼとしてきたじゃねえか。どうしてくれんだ、明日仕事が出来なかったら殺すぞ、まあ俺自身をどうやって殺すのかはわからねえが。
怒りの矛先は、まあ間違いなく臨也に向くんだろうなと考える。

臨…臨、也?
「くそ、あいつか!」
俺は、臨也の行為でこんなになっていると決めつけて新宿まで走る。
こんな夜中に池袋を抜け出したのは初めてかもしれない。
そんなことを考えていれば、臨也のマンションが見えてきた。そこで動きを止める。何で止めたかって?そこにいた奴こそ、今、最も会いたくて殺したかったノミ蟲野郎だったからな。

「…!やあ、どうしたの静ちゃん。」
少し驚いた表情をしたが、俺が瞬きをして目を開けた頃にはいつものうざい臨也が目の前にいた。

「どうしたもこうしたもねえ!手前、俺に何しやがった」
白々しい嘘を吐く臨也を本気でぶん殴りたかった。
「は?」
勝手に決めつけていたことは不覚にも間違っていたと気付くのはあまりにも早かった。
臨也は、本気で何を言っているのかわからないといった表情をしていた。

「いや、だからよ。眠いのに寝れねえから…手前が何か盛ったのかと。」
まあ、ここまで来ておいてわりぃ間違いだったなんて言える筈もなく、まだまだ真実はわからないといった表情と言葉を放つ。

「静ちゃん、俺は君に薬を盛るのなら毒薬か媚薬にする。だから静ちゃんが眠れないのは、何か心の中でもやもやしていることがあるからだろ?」
正論だと思った。臨也は、何に使うかわからない馬鹿な薬は使わない。使うならこう、殺すための毒薬とか、犯すための媚薬とか…って、何で媚薬を使う必要があるんだよと突っ込みをいれたかったがやめた。

「臨也、手前はもやもやしてることがあんのか?」
「は?何で。」
「いや、だって、手前も深夜うろちょろしてんじゃねえか。池袋とかに来てんだろ?」

そう、最近臨也が夜に池袋に来ている。最初見掛けたときは、殺しに行こうと自動販売機を持ったところで、せつなげな表情をして何処かを見つめている臨也を見て何もしないで帰ろうと決めた。普段人を馬鹿にしているような表情ではなく本来の臨也を見た気がした。そうだ、それが気になったんだよなあ。
普段、理屈ばかりを並べている言葉は、情報屋の臨也を保つ為のようなものなのだろうかと真偽がわからない結論を出した。

「少し待ってくれ。ということは、静ちゃんはずっと見ていたのか?」
「ああ。文句あっか?」
「いや、静ちゃんがしていることは全く俺には無関係なことだ。だけど、アレだけは見られたくない。だから今死ねよ」
そんなに見られたくないのか?俺的にはあの臨也の方が好きだったのによお。
あの何処か違う世界に行きたいとか思っているような表情。

「手前が死ね。そんなに見られたくねえなら池袋に来んな」
「煩い、どうせ静ちゃんにはわからないよ」

儚げな表情をする臨也に俺は何も言えなかった。
自分には何も理解出来ねえ。手前のことなんか理解したくもねえ。それなのに、何で。身体が動いてしまうのだろうか。
臨也の傍に行き、行き場のない臨也の左腕を引き寄せると、自然に臨也の身体が俺の胸に入ってくる。ぼすんと音をたてながら。

「俺にはよく理解出来ねえかもしれねえ。だけど、俺の眠れない理由に手前が深く関わっているのは分かった。だから、理解出来るときが来るまで、傍に居ろ」
何を口走ってるんだと思ったが、まあ気にすることではないと判断する。

「馬鹿だなあ、静ちゃんは、」
震えた声を出す臨也を強く抱き締める。
何でこんなことをしてるのかは自分でもわからなかった。多分、臨也のことを嫌い嫌いと言っている間に好きになってしまったのだと思う。
ああ、ここに来なければこの気持ちに気づくことはなかったのによ。
俺は、臨也を殴る目的を実行出来ずにいた。


もし、君が/0323
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テーマ「人外ファンタジー」
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