口内炎痛 | ナノ



一つ一つと口に運ぶ。それと同時にずきずきっ―と刺さるように奥底まで沁みているような感覚がする。 もう何も食べたくないと思うほどの感覚ではあるが、栄養を摂らないと治るのも治らないのでひたすら口に運ぶことにした。
嫌だ嫌だもう 何もしたくない。こんな台詞を常々吐きながら痛々しいくらい膨らんできている口内炎を鏡でみる。
自分の手で下唇を摘まみ下に下ろすとそこに見えるものは、赤々しいようなグロテスクような小さな粒 がポツリと見える。

「あー、やべえな。うにみたいなのが天辺に付いてんなー、何もしなくてもいてえ。」
起床する度に治っていないかと期待を抱くが、毎度のこと裏切られている。もう今日で一週間が過ぎている。どれだけの期間この口内炎と共に過ごしていかなければいけないのかと思うほど痛みが酷くなる。
だんだんと口内炎の痛み以外の痛感が無くなっている気もしてくる。

「っても、力が出てこねえんだよな、仕事する気力とかねえし。」
鏡をずっと見ていると、ナルシストのような気がして嫌になる。もう、これは飯を変えないとなと心に決める。
トムさんには悪いけど、しょうがねえよな。
ええと、どうしようかコレ。今、外に出て臨也と出くわせても殺すことは不可能だし、ああうぜえ。
本当に、こう口内炎とかうぜえ!臨也の次にうぜえよ。つか、このしつこさとうざさは、臨也の奴に似てるよな。
ノミ蟲というよりも口内炎に似てるよな。あー、腹が立つ。

「殺す、絶対殺す。よし、気力が出てきたところで、臨也をぶん殴りにでも行くか」
そう口に出して、リビングに向かった。あー朝飯食ってねえが、まあいいか。等と思いながら煙草を見つけ一本取り出す。
その時に、

「あっれー。静ちゃん煙草は吸えるんだね。口内炎大丈夫?」
心配してる口ぶりな割には態度がもう馬鹿にしているような感じで心底腹が立った。

「死ね!んで、手前が俺の家にいんだよ。出てけ、死ね!てか、何で口内炎のこと知ってんだよ!」
一気に喋って疲れたためか、ぜえぜえと息が荒くなる。いや、疲れているというよりも興奮しているだけなのだろうが。

「あのさー、死ねとかそう簡単に言うなよ。静ちゃんの口内炎は俺のせいでもあるかもしれないから来てやったのに。」
すごく上から物を言われているが、気にすることはそこではない。
この口内炎が臨也と関係があるのかとか臨也は口内炎になる薬を俺に使ったのかとかというか口内炎になる薬なんてあるのかとか。
色々なことを思い浮かんできた。それでも、口に出したのは、

「は?なに言ってんだ手前」
、臨也がソレについて説明をするように促す言葉しか出なかった。

「うーんとね、一応俺たちって恋人だろ?だからだよ。」
全く訳がわからなかった。
「だからね、口内炎が出来るのって、偏食による鉄分やビタミンの不足以外にも睡眠不足とか不正咬合や、歯ブラシとかによる粘膜への物理的刺激簡単に言えば、口内を噛むとかの行為でもなるもんなんだよね。
だから、俺といつもキスしてるからなっちゃったのかなと思って、来たんだけど…まあその心配は必要なかったって訳か。」

本当に、良く喋る。そして、自分で勝手に結果を決める。人の意見なんて聞きもしないでよ。

「そういうことか。そんなら一週間くらいは手前との行為は禁止だな。」
「は?何いってんの、馬鹿?誰が、静ちゃんごときの為に欲を我慢する必要があるわけ?」

それなら、俺に何を望んでいるんだよ。口内炎が自分のせいだと理解したからそれを言いに来ただけじゃねえのかよ。

「意味が分からねえ。それなら手前は何の為に来たんだよ。」
「いや、最近静ちゃんに会いに来てなかったからなんだけどさ。…キス、しようよ。」
急に、熱い眼差しで見つめてくる臨也にいいよと言う所だった。
俺らにムードという言葉が無いのは前もって分かっていたがここまでとは、と思う。

「おい。今、キスすることが口内炎になるとか言ってなかったけか?」

「大丈夫だろ、静ちゃんは人間じゃないから。それに、長くするからなるだけだし。」

「死ね、俺は、人間だ。…長くしないとか手前に出来んのかよ。しつこい臨也くんよォ」
嫌味を強く強調したつもりだった。それは、積極的だとかそういうのではなくて、ただただ嫌味で言ったはずなのに、

「何、誘ってんの?まあ、静ちゃんは俺とのキス大好きだからねえ。」
馬鹿な勘違いとかしてる奴をぶん殴りてえ。だけど、俺も結構その気だったり、なんだよな。

「あーもう、分かったから。別にすれば?」
諦めた口調で言ったが、臨也にはバレているんだろう。
「それじゃー、目瞑って。それと、口開けてよ」
意味が分からないが、抗うことはないだろうと思い、何も抵抗せずに臨也に従った。
ぶしゅーっ
「っ!?…」
何も声が出せなかった。目瞑ってたからよく分からないがこの感覚はレモン…?
思いっきり俺の口内炎に直撃で、当たった。痛すぎて、全く声が出なかった。
声にもならない叫びとはこのことなんだろうなと思うほどの痛さ。
そして、目の前にはむかつく程良い笑顔をしている臨也がいる。

「アハハハハ、面白い反応ありがとね。それじゃー、まあ。ビタミンでも摂りなよー」
最後に、触れるだけのキスをして臨也は出て行った。
家を出ていくときに、少しだけ首を出して心配そうな顔をしていた臨也が一番うざかった。
何だよ、ノミ蟲のくせに、俺の心配なんかすんじゃねーよ。
ちょっとだけ、ちょっとだけ
意識しちまうだろーが!
それでも、レモン汁は効いたので、治った直後に殴り飛ばした。
まあ、少しくらいは手加減したけど、な。




口内炎痛/0321

口内炎ネタ美味いもぐもぐ。
大好きです^^今度、シリーズで出したいなあ、なんて。
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