愛したことはある。それでも、人間は欲望の塊で、愛されたいと思ってしまう。自分にはないと思っていたことだし。その相手が彼奴なんて思いもしなかった。
ガヤガヤと五月蝿いなとは思いながらも早く仕事を終わらせるために速足になっていた。
そして、何故街が五月蝿いのかなどを頭の片隅に少しだけ置いていたのも事実だった。
そんなことを考えていれば、女の人だかりを目前する。アイドルでもテレビ局でも来たのか、と思い目を傾ければ、
ガンッ
折原臨也が輪の中心に居た。適当にそこら辺にあるかごを投げれば
「痛いなあ、静ちゃん。人が怪我したらどうすんのさ」
「いーざーやっ!池袋には二度と来んなっつたよな〜」
最近は全く姿を見なかった。やっと何処かで野垂れ死んだか、と考えていた昨夜。その次の日に会うってどういうことだと思いながら臨也の前に物を投げながら行くと、
「なあに静ちゃん。そんなに俺のこと好きだったのかあ。」
普段とは違う、嫌味な言葉。いつ誰が何処で何をどの様にしたらそんなことを思い付くんだと言いながら、自動車や標識、自動販売機なども次々と投げていく。
「あれー、やっぱり静ちゃんは知らないのか〜」
その減らず口を一生喋れなくしてやろうか。とか考えていた。
「今日は、バレンタインデーだよー」
臨也の一言で考えたことがある。
かごの中には何が入っていた。あれは、チョコが入っていたよ、な。それに朝コンビニに寄った時に、チョコが沢山並んでいたので後で食べようと買った市販のチョコまで臨也に投げてしまった。
てことはだ、俺が臨也にチョコを上げてしまったということになる。
やってしまった。
だが、俺が投げたチョコは、数え切れない以上ある。俺が食べようとしていたチョコなど臨也が見つける訳が、
「これ、俺にでしょ?有り難く貰っておくよ。でも、市販か、手作りを期待してたのになあ」
何故、分かるんだ彼奴。情報屋だからか?
「っ誰が手前になんかやるか、!バレンタインデーなんて知らねえんだよ」
「あはは、静ちゃん。ホワイトデーは期待しててね、こんなのよりちゃんとしてる100倍返ししてあげるから。じゃあね」
臨也が居なくなった今、俺を怒らせる奴は居なくて、ただ道のど真ん中に座り
「ちゃんと返せよ、ホワイトデー…」
そう呟いた自分が居て、先程よりも汐らしくしゃがんだ。
知らないバレンタイン/0214