現実非現実囚われない | ナノ







誰かの為に、何かをしたいと思ったことはない。そしてこれからもしたいと思わないだろう。人は、皆平等だから。
「どっか行け、手前がいると邪魔」
普段とは違う気弱な声と、火照った顔をしている平和島が折原の目に映る。
大丈夫なの、とか俺が看病してやるだとか、頭の中で色々な言葉が次々と脳裏に過る折原だったが、

「馬鹿は風邪引かないって嘘だったのかなー?うーん」
折原の放つ言葉には棘が沢山あった。平和島は、喧嘩売ってるのなら買うぜと強気な表情をしているのがやっとなのか、
「うっせ…」
その一言を言うだけだった。
本当に大丈夫なのかと、少しだけ思った折原が自分の手を平和島の額に乗っければ、掠れた声で、気持ち良いと言った。
いつも、反論する平和島がこんなにも弱っているところを見て、特定の人を作りたくなってしまう気持ちを抑えて、

「とりあえず、何か食べなよ。」
自分が自分ではなくなってしまう前に早くここから出て行きたくなくなってしまい、部屋を出ようとすると、
ぎゅっと、自分の裾を掴まれたので、引張られている先を見てみると、

「もうちょっと、居ろ!」苦しそうな顔をしている平和島が折原の目に映る。
こんな弱い面を見せられると、優しくしたくなるよな、と少々困った顔をしたが、
「うん、まだ居るよ。静ちゃんの弱ってるとこもっと見たいし。」

「うっせ。なんかよお、手前の顔みてっと寝やすいんだよ。」
平和島の放った一言に、折原は

「か…可愛いよ、静ちゃん!」
自分が思っても見なかったことを言われて、感激していた。
急に折原に抱きしめられて驚いたのか、平和島は

「うおっ、ちょ臨也!?」
予期していなかったことが起きたので、そのまま臨也に依って起こしていた状態を思い切り下げられた。
あー、なんかガンガンしてきた気が、とか風邪で頭逝っちまいやがったかな、俺。とか口々という平和島を放置し、

「やっぱ、静ちゃんだね!今日は静ちゃんに纏わり付くことを決めたよ。一緒に寝よう。」

「はあ?っざけんな!誰がお前なんか、と。」

まだ、体調が優れていないせいで、少しでも頭に血が昇ると身体が悲鳴をあげた。
「ほらほら、安静にだよ。」
今日は、このテンションで行くのかよ、臨也と思いながら平和島は眠りにつこうとする。
眠るしかないから。この臨也に何を言っても無駄なのは明確だし。まずは、体調を良くして元気になればいい。
こんなに甘えたの 初めてかもしれない。偶には良いかもなと少し思ってしまった自分はもう終わりなのであろうか。


その後日、平和島に纏わり付くように寝ていた折原が風邪を拗らせてしまうことを平和島は悟っていた。

「馬鹿野郎だな、おら退け!仕事あんだよ。」

「酷いなあ、静ちゃん。」
「うっせ…」

平和島はこの一件で思ったことがある。
あまり人に干渉しないと思っていたし、傷つけることを考えると特定な人を創れなくなっていた。
それでも、臨也だけはいくら自分が突き放そうとしても苛々するほど纏わり付く。殴ろうとしても塵箱や自動販売機を投げようとも。初めてだ。臨也の為に、人の為に時間を潰そうと決意したのは。

臨也にも言える。
人間愛を布教する身が特定な人を創るとは。最悪だ。でも、こんなにも気持ちがいい。以前から、静ちゃん以外の人間を愛しているといった。
本当のことだが、もしかしたら初対面の時から静ちゃんだけが特定の人だったのかもしれない。
こんなにも、静ちゃんの為、特定の人の為に自分が動いたのは久方振りだ。


「明日からは、普段通りだ。今日だけだ今日だけ!」
「明日からは、静ちゃんを馬鹿にして、人間観察でもしようかな。愛する人間の。」


現実非現実囚われない/0208
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -