「つまり、フレムを生み出したのはお前……ということになるのか?」
「その通り! 断片的に思い浮かんでいる中書いてて、勝手に一人歩きをしたヒロインだよね〜」
「ご、ごめんなさい!!」
「ううん、謝らなくて良いよ! 君以上に暴れまくってるヒロインなんて、沢山いるから」
ハハハハ! と笑う彼女は、何故か遠くを見るような眼差しで天井を見上げていた。
「何から言えばいいか……ひとまず、フレムを生み出してくれたことに感謝するべきなんだろうな」
「ん? 何でなん?」
「彼女を通じて、色んなことを学ばせてもらったからな。恋愛も含めて、な」
「!」
そう言うと、フレムはカッと頬を赤く染めた。その姿が可愛くて、そっと抱き寄せると……
「おーおー、見せてくれるやないか。カゲッちゃん夫婦同様に、書く楽しみが増えそうでなによりやなぁ〜」
「??」
聞き慣れない奴の名前に首をかしげると、夜桜はフレムにマイクを差し出した。
「折角や、ここで歌でも披露してくれまへんか? フレムちゃん、めっちゃ歌が上手やからな!」
「でででで、でも!!」
「レット・イット・ゴーがエエなぁ〜思うけど、どや? エルサが、城を飛び出して山に氷の居城を作ったあの……」
「あの時の……うう、下手でも笑わないでくださいね……!!」
「んなことあらへんって!! さあさあ皆さん、ここで挑戦者の紹介といっくでー!」
いつの間にかマイクにスイッチを入れ、盛大に奴は高らかに会話を始めた。
『今回初出演!! 炎の国・スルトを治めてた女王・フレム選手でっす! エルサやアナと言ったディズニーキャラの親友と言われているだけあり、歌唱力は抜群です! そんな彼女が歌うのは、超有名曲となった【レット・イット・ゴー】! さあさあ皆さん、彼女の美声に酔いしれてください!!』
「圧力かけすぎじゃね?」
「それだけ期待されてるのだろう? アイツが圧力を掛けまくるのは、今に始まったことではない」
呆れかえる兄弟の横へと案内され、半強制的に用意された椅子へと腰を下ろす。
ステージにはフレムが一人だけ立つこととなり、周りがゆっくりと暗くなる。そして、ピアノの独奏が流れ始めた。
「また誰かを巻き込んだのか……」
伴奏が流れる中、呆れたような男の声が耳に入ってきた。
「巻き込んだ訳やあらへん。カゲッちゃん、勘違い起こすような発言は控えてくれんか?」
「無理だな。お前の前では遠慮なく暴言を始めとした言葉を吐くと決めたからな」
「ひっでぇ!」
親しい間柄なのだろうな、特に遠慮することなく発言しているところを見ると長い付き合いなのだろう。
そんなことを思っていると、フレムの歌が始まった。
「!」
本気で歌う彼女を見るのは今回が初めてで、以前エルサが絶賛していたことを思い出す。
成程……伸び伸びと歌う彼女の声は、何処までも響き……誰かの心に強く語りかけている印象を受ける。片手を大きく広げ、体を使っての表現力は何処までも魅力的で……見入ってしまう。
そして、最後の最後で歌い切ると……周りから盛大な拍手が溢れ返った。
『皆さん、ありがとうございました!』
一つの達成感に満たされている彼女は、何処までも輝かしく……観客の心を掴んでいた。
多くの客の拍手に包まれる彼女を、誇らしくも思いながら胸の奥からざわざわとドス黒い感情が噴き出してくる。一体なんだというのだろうか……?
「この様子だと、フレムちゃん優勝でもエエな! うん、カイリちゃんどう?」
「とても素敵だったから、私は文句のつけようがないですよ!」
俺たちの座る席の近くに立つ少女……彼女がカイリというらしく、愛らしく笑いながら頷いているようだ。
「はーい、フレムちゃんありがとー! はてさて、こののど自慢大会……総合優勝は、フレムちゃんで決定ー!!」
「んで? 優勝者には何をするんだ?」
「……え?」
顎に手を添えてそう発する男に、肝心の本人はと言うと目を丸くさせて頭をかいていた。
この様子を見る限り……
「しまった、なーんも決めてへんわ!!」
「自信満々に叫ぶとこじゃねーから!!」
HAHAHAHA! と笑う彼女に突っ込みを入れたのは、最初に九曜に足を運んだ際に声をかけてきたツンツン頭の奴だった。
その後は、まあワイワイと騒がしくなりフレムは慌てながら俺の元へと戻ってくることができたようだ。
「ど、どうしましょう……」
「まあ、このままでは収集つかないようですし代理で私がお話しましょう」
「!!」
背後から別の男の声が聞こえ、ビクッと反応してから振り向いた。
そこにいたのは、真黒な服に身を包む長身の男……俺より身長が高い奴だ。
「実を言うと、今月は彼女の誕生月なんですよ」
「え! そうなんですか? おめでたいですねー!」
「それが一体何だというのだ……」
「ええ、実はですね……」
男の話によると、彼女は自分の誕生月のある月に不定期ながらも誕生日企画と称して劇形式の物語を制作しているそうだ。
配役やモブと言った奴らも、全て彼女が決めているそうで……
「本当は去年制作するはずだったお話がありまして……『人魚姫』のお話を題材とした劇を計画していました」
「人魚姫! 素敵ですねー!」
「人魚……?」
恐らく、俺の想像している物とフレムの想像している物は明らかに違うだろう。
そう思い俺は特に言葉を発することなく、男の話を聞いていた。
「王子の役は決まったのですが、本格的な王子という人柄に出逢っていないこともありなかなかイメージが掴めないようで。もしよろしければ、ご指導のほどをお願いしたいと思っていますが……構いませんか?」
「これが初めての劇ではあるまい?」
「ええ、前回は"美女と野獣"を題材に、王子役はあの方が担当されましたよ」
あの方、というのは顔の半分を仮面で覆われている奴のようだ。
「劇のタイトルは『吸血鬼の館』、まあ……数年前に私が主役としてやった劇の完全リメイクとしてやったものですけどね。反響は上々で、次回作を期待している方が多いんですよ」
「ほう? なかなかに、面白そうな催しだな」
「フレムさん、で宜しいでしょうか? 貴女は正当な女王様ですが……人魚姫の役をされる方に王女の何たるかのご指導をお願いしても宜しいですか?」
「わ、私で務まるか分りませんが……良いのですか?」
「そこの彼が同意してくだされば万事解決ですよ」
人差し指を立てて話す奴の薄ら笑いが少しだけ気持ち悪く思いながらも、俺はどうすべきか少し悩む。
別のセカイに接する機会があるならば、やってみるのも悪くはないだろう……
「――俺は別に良いだろう。が、指導は厳しくいくが構わんか?」
「大丈夫でしょう。王子役は沖縄の地でテニスをする中学生、厳しい指導の元で練習に励んでいる少年ですから問題ありません。……ところで、そろそろ大乱闘はその辺にされてはいかがですか?」
ハァとため息交じりで話をする奴の視線の先を見ると、今すぐにでも戦闘を始めようとする奴らの姿が飛び込んできた。
「朱然クン、夜桜さんに弓矢を渡すなとあれほど言ったでしょう」
「だって!! アイツ、あっという間に持っていきやがったんだぞ!!」
朱然、と呼ばれた男は燃え上がる炎のような耳飾りをつけた短髪の奴のようだな。
「な、何故弓矢を……」
「昔の血が騒いでるのではないですか? 高校時代、弓道部で優勝の実績もあって有段者ですからね。はっちゃけてた当時が懐かしいですよ」
「は……?」
身内を話しているかのような感覚があるが、明らかに赤の他人であるのは間違いない。
男は動じることなく、混沌とした空気が充満する場所へと足を運んでいく。
「夜桜さん、この辺になさい。彼らには今後のことを話しておきましたし、同意を得ましたから」
「あ、ホントに? 毎度のことながら、ホンマにあざます! バネさん」
「長い付き合いですからね、これくらいお安いご用ですよ。それと、本気の戦いが出来るなら是非とも私とお手合わせしませんか? 美堂蛮クン?」
「ケッ! 赤屍のヤローと誰がやりあうかってんだ!!」
餓鬼のように舌を出す男に、ハァと赤屍と呼ばれた男は息を吐いた。
「ところで夜桜さん、ここでの連載もひと段落したようですが……次回作とか考えているのですか?」
「ん〜、カリバーンさんと忍者ヒロインのお話かなー? 需要があるか分からないけど。あと、個人的に兄上とフレムちゃんのお話は続けて書きたいかなー。あの二人、めっさ書きやすいんよ。リクエストも貰っているから、書きたいしね! ノマカプは書いたことがないから、友情もので手を打とうと思ってます!」
「完全夢思考な貴女が何処まで書けるかが見ものですね」
「小動物を見下すような眼差しで私を見るとか、流石バネさんだわー」
――そんなこんなで、この場は静まり俺たちは宿へと引き返すこととなった。
見慣れない奴らと対面し、会話ができたことはフレムにとって大きな意味があったようで……終始興奮気味だったようだ。
俺自身も、知らない奴と会話をしたことで良い刺激を受けたのも事実で……
(ま、こんな休暇も悪くはないな)
フレムの肩を抱きよせ、ゆっくりとした足取りで帰路に着く。
弟たちに良い土産話ができたと思いながら……
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