Side 名前
色んな人から声をかけられ、多くの人たちに支えられて……私はここに立っている。

玉座の椅子が置かれている場所まで連れられ、私は王女や王子……そして城下に住む皆さんの視線を一気に受けていた。


(い、今まで以上に多く視線を受けてる……!!)


緊張させっぱなしの私は、嫌な汗が額から流れないか心配で仕方がない。

すると、ずっと繋がれていた手が離れ……フロストさんは私へと振り返った。

そして……流れるように彼は、私の前で膝をついたのだ。


「フ、フロストさん!?」

「名前……いや、名前女王殿下」


言い換える彼の真意が分からず、私は言葉を続けようとした口を止めた。


「きっかけは些細な事でした……諸事情で国を離れた貴女を保護したことが、全ての始まりだったのです。俺は、民と同じ視線で世の中を見つめ……王族として、そしてここに住む一人の住民として、この国を良くしたいという姿勢を持つ貴女に一目で惚れました。俺を支えられるのは、貴女だけ……どうか、我が妻に――このスノウフィリアの妃として、共に歩んではくれませんか?」


改めた、公の場として紡いでくれた彼の想いは……本当に深く、優しいものだ。

トクンと甘く早鐘を打つ心に手を当て、私は思考を巡らせる。目の前で膝をつく、愛しい彼へと捧げる……言葉を口にする為に。


「フロスト王子殿、どうか顔をあげてください」

「!」


小さく反応した彼は、床へ向けていた視線を私へと向けてくれた。

そして、私のまた膝をついて彼と同じ視線になるように腰を下す。


「私は、幼いころに両親を亡くし幼少時代から女王として国を統治していました。ですが、ある事件をきっかけに自国を焼け野原にしてしまう大罪を犯した女王……力の暴走を抑えられなかった弱い存在です。そんな私を、貴方は受け入れて……くれると言うのですか?」

「――寛大で優しい心を持っている貴女が、力を暴走させてしまったのは大きな理由があってのこと。その根源が、まさかこの会場へ足を運ぶとは思いもしない事態だった」


フロストさんの言葉に、周囲に居る人たちが一斉にフラン王子へと視線を動かした。

だが、その視線は彼に留まることなくすぐに私達へと顔を向けてくる。


「貴女でなければ意味がない……孤独の道を歩んできた孤高の炎の女王よ、俺という宿木へ身を預けてくれないだろうか? もう孤独(ひとり)で頑張らずに、俺と共に歩む道を選んでください」


ゆっくりとお互いに立ち上がり、そっと私の頬を撫でてくる彼はどこまでも優しくて……言葉を紡ごうとする唇が震えてしまう。ただただ嬉しくて、上手く言葉が出てこない。


「そして――」


顎に手を添え持ち上げられると、彼は口元に笑みを浮かべてきた。


「俺の女となれ」

「ッ!」


小さく、私にしか聞こえない声で放つ彼の言葉に……カッと私は顔を赤くした。


「そう、ですね。もう、私も疲れが出てきたのでしょうか……誰かに頼って生涯を歩きたい。その相手が貴方なら、私は嬉しい……」

「!」

「誰かに頼る術を知らないまま、女王としての道を歩いてきた女ですが……導いて、くれますか? 貴方という雪の王子がもたらす輝かしい未来を、共に歩ませて下さい」


苦しい時も、哀しい時も、辛い時も……ずっと一人で抱えて生きてきた。

だけど、もう……一人で頑張らなくて良いんだよね……?

「愛しています……フロストさん」

「俺も、愛している……」


彼の頬に手を添え、少しだけ背伸びをしてキスをすると……周囲から歓声と多くの拍手が鳴り響いた。

その拍手はどこまでも暖かく、恋人となった私たちを歓迎してくれている。


「名前、ここから忙しくなりそうだな」

「大丈夫。貴方と一緒なら、ちょっとやそっとじゃへこたれないわよ」


支えてくれる存在がどれほど大きく、私を安心させてくれるのか――貴方は知らないだろうから。

手を繋ぎ、玉座の席から離れると住民の方々にあっという間に囲まれてしまった。

おめでとう、という言葉や挙式の日を知ろうとする人まで。老若男女様々な声が充満している。


「結婚式の日、今から楽しみね。アポロ」

「そうだな、あいつらなら……俺たち以上に盛大に盛り上げるだろう」


少し離れた場所で、微笑ましく私たちを見守るアポロご夫婦。


「炎に雪、ですか。対照的な立ち位置にある存在……あの二人を見てると、良いティアラとクラウンが造れそうだ」


シャンパンを口付けながら、そう言葉を紡ぐカーライルさんは何処か楽しそうだ。

新たな一歩を踏み出そうとする私は、天国に居る両親のことを思い描きながら彼の手を取る。支えてくれる人が多くいる中……私は胸に手を当てた。


(もう、一人で寒さを感じることはない。少しも寒くないわ――)


住民や足を運んでくれた王子たちへと挨拶に回る私たちの指には、祝福してくれるように両親の指輪がキラリと輝くのだった。


END
prev / next
(3/3)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -