▽ 勝敗の結果
まず最初に、丁度近くを通りがかった女性にウッドロウが声をかける。
「すまない、少しだけ時間を貰っても良いだろうか?」
「ええ、なんですか?」
「あなたは、この二人のうちどちらが好みですか?」
唐突な問いに、女性は少しだけ驚きの声を上げるが、状況を把握してくれたのか「うーーん……」と小さな声を漏らす。どうやら真剣に考えてくれているようだ。そして、出された答えが……
「あなたね」
「わ、私ですか?」
なんと、審判役として中立の立場にいるウッドロウだった。
「おーー!」
「さすがウッドロウ様です!」
「〜〜ッ!! もういい! 次だ」
驚くスタンと、納得の声を上げるチェルシーにムスッとしながらコングマンは声を荒げる。
そして、再度道行く女性達に声をかけていった。
「どちらが好みですか?」
そうウッドロウが問うと、声をかけられた女性は決まって……
「えーーと……あなた」
そう、ウッドロウを指しながら回答するのである。
そしてもうひとり声をかけるが……
「あなた」
そしてもうひとり……
「あなたね」
挙句の果てには、チェルシーよりも年下の女の子に問うても……
「ん〜、おにいちゃん!」
「……私か」
そんなことが続き、その結果……
「なんだこりゃぁ!」
リーンやコングマンには票が入らず、全ての女性がウッドロウにしか票を入れなかったのである。
「ウッドロウさんは、やっぱり凄いなぁ」
「さすがのローズプリンスも、本物には勝てませんね! でも、凄く複雑な気分ですぅ」
正直なところを言えば、リーンやコングマンと比べればウッドロウの方が美男子だから、そこに彼女達が惹かれたのだろうと誰もが簡単に理解してしまう。
なんせウッドロウはファンダリア王国の国王だから、物腰も柔らかく優しいのは彼の性格ゆえである。
「やっぱり、この三人の中だったら彼を選ぶに決まってるじゃない」
「ところでお兄さん、この後暇? 一緒にお茶とかどう?」
「いや、私は先を急ぐ身だ」
それに、とウッドロウは彼女達に向けて言葉を続けていく。
「私には、生涯を共にと誓う未来の妻がいる。好意はありがたく受け取れるが、それには応えられないのだ。すまない」
どんなに離れていたって、彼の心は何時だってハルミへと想いを馳せている。買い物も終わり、今すぐにでも集合場所であると決めた船着場へと向かいたい気持ちで一杯だ。
にこりと微笑みながら、荷物を手に「さあ、行こうか」とスタンたちに声をかけるウッドロウ。先へと歩いていく彼をチェルシーが追い、スタンは硬直するコングマンを引きずりながらこの場から去って行った。
只一人、ローズプリンスという名を持っているのにも関わらず一票も入らなかったことが、リーンにとって大々的な衝撃とショックを与えていた。そんな彼が立ち直るのに相当時間が掛かってしまうのは、また別の話である。
***
「冗談じゃないわよ!!」
「?」
待ち合わせ場所である船着場へと着くと、そんなに離れていない場所から女性の甲高い声が響いてきた。ドカッと荷物を置いたチェルシーとウッドロウは声がした方を向く。
「あ! ウッドロウ様、ハルミさんがいます!」
「そうみたいだね。どうやら、困り果てているようだが……」
二人の女性に挟まれて小さくなるハルミ。その後ろには、何故か男性人が一列になって並んでいた。
この光景は、つい先程見たばかりのものだとチェルシーは思いながらハルミの下へと駆け寄る。
「ハルミさーん!」
「! あ、チェルシーちゃん。買い物は終わったの?」
「はい! ウッドロウ様もご一緒ですよ!」
「ウッドロウ様〜!」と手を振るチェルシーに呼ばれ、肩をすくめながら歩き出す。
スタンとコングマンは荷物番をするということで、一旦二人と分かれる形を取った。
「ハルミ、これは一体……?」
「あー、ごめんウッドロウ。実は……」
事情を聞こうとハルミに声をかけるが、助け舟を出すように買い物袋を手にしているルーティが口を開いた。
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