▽ モテ女対決……?
遡る事数分前のこと。
「このお魚はとても新鮮ですね。ハルミさん、どうですか?」
「そうですね。あ、この野菜も小振りですけど甘さがギュッと詰まっていそう……これ、いただけませんか?」
「お嬢ちゃんは目が利くね! これは今朝取れたばかりの新鮮モノだよ、持っていきな!」
城下町で大体の食料の調達が終わり、船着場近くで開かれている八百屋へと足を運んでいた。
材料も大体買い揃えることが出来、そろそろ待ち合わせ場所へと行こうとしていたときだ。ルーティが言い争いをしている女性二人に気付いたのである。
港町周辺で騒ぎが起きるのは良くあることで、周囲の住民は見慣れた光景だからか特に止めに入る様子もなかった。だが、流石に声が大きく迷惑そうに人が酒ながら通っているところを見ては、ハルミは黙ってはいられなかったのである。
言い争いをする女性二人の仲介に入り、事情を聞くと……どうやら『どちらが男性に気に入られる女性であるか』という話で争っていたようである。
第三者からすればどうでもいい話、だが当人からすれば重要な話に違いないだろう。なんとかしてその争いを終わらせてあげたい……そう思ったハルミの出した提案が、『モテ女対決』だった。
近隣を歩いている男性に声をかけて、どちらの女性が好みであるかと問うていく。その結果、より多くの票を獲得した者が勝者というルールだ。
言い出したのがハルミということもあり、彼女が審判として仕切っていたのだが……
「まあ、言い争っている二人よりハルミさんを選ぶ男共の感性は間違ってないわ」
「ええ、同姓としてもハルミさんはとても魅力的な方ですから」
「包容力もあって話しやすい、モテる女性の条件を多く持っているとも言えるな」
「ちょ、ちょっと三人とも……!」
何故か納得したかのように頷くルーティとフィリアとマリーに、ハルミが困り果てるのは言うまでもないことだ。
その理由は、ハルミのすぐ後ろに多くの男性が並んだということ。
「〜〜〜〜ッッ!! 冗談じゃないわよ!!」
そして、痺れを切らした一人の女性が声を荒げたのである。その声にチェルシーたちが気付いて駆け寄った。
つまり、話の流れはこのような感じで進んでいたのだ。
***
「少しではないが、妬いてしまうな」
「え?」
ハルミの後ろに並ぶ男性陣を見つめながら、そっと彼女の頬を撫でていく。
「君は、私が思う以上に多くの男性を魅了していたのを痛感してね。やっと手に入れたとばかり思っていたのに……」
行き交う人に声をかけて、問うたら好みの女性はハルミだと応えた男性が多い。パッと見ただけで誰だって分かってしまうのだ、彼女の持つ優しさや、暖かさがどれだけ多くの異性を魅了するのかを。
「どんなに多くの男性に親しまれても、私の心を動かせるのはウッドロウだけ。こんなに誰かを愛したいって気持ちになったのも、貴方が初めてなの。後にも先にも、愛しいと想えるのは――」
ウッドロウだけ。
はにかむように頬を赤くしながら話す彼女が、このうえなく可愛く見えて。こんな女性が自分のモノである事実がたまらなく嬉しい。
今すぐにこの唇を塞ぎ、激しく彼女を求めたい衝動に駆られるが……心の奥底にある理性が根強く制する。今、この場で彼女を押し倒すような事態に持っていってはだめだ……
「……さあ、そろそろ出発しようか。スタン君たちが待ちわびている」
「うん!」
キスしてもおかしくないくらい顔が近い二人は、微笑みあいながら歩いていく。
そんな姿を、言い争っていた女性二人は勿論のこと周囲にいた人たちが顔を赤くしながら見ていたことに……この二人は気付く由もなかった。
END
本編の時系列で言えば、14話と15話の間にある感じ。
このサブイベは本当に笑わせてもらいましたよ! 逆バージョンがほしいと思って、ヒロイン版も一緒に書いたら案の定長くなりましたよ。
こうやって、TODのサブイベを番外編という形で書くのは楽しいですね。温泉イベントとかも書きたいです!!
2014/10/21
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