02
そして夜、忘らるる都に数十人の子供たちが集まった。
湖の前で、一ヵ所に固まって辺りを見渡しているようだ。
そんな子供たちに、カダージュは語りかけるように手を広げて話だした。
「僕は母さんから、特別な力を授かった。人間を苦しめる……この星と闘う為の力だ」
この言葉に、アズールの服を掴んでいたマリンがビクッと反応する。
手を振り上げたり、子供たちに背を向けながらと、カダージュは動きながら演説をしている。
「実は、この力はみんなも持っている。そう、僕たちは兄弟なんだ。ライフストリームに溶けていた母さんの遺伝思念を受け継いだ、選ばれし兄弟。でも――――」
振りかえり間際、強く子友達に訴えるようにカダージュは言った。
「星がみんなの邪魔をしている。僕達の成長を止めてしまおうとしている。だから、君たちの身体は痛み、心が挫けそうになるんだ!」
カダージュに指されて更に圧倒され、子供たちはハッと気づかされたかのような反応をした。
その様子に、カダージュはクスリと笑みを浮かべた。
「治してあげるよ、そして母さんの所へ行こう。家族で力を合わせて、星に仕返しするんだ!!」
カダージュの語りに、いつの間にか子供達は見入っていた。
そして、だんだんと子供達の様子が変わってきている。アズールやマリンが見ても分かった。
「僕に続いて……」
様子の変化に気付くカダージュは、子供達を誘導するように湖に入って水を手の平一杯分飲む。
すると、子供達はどんどんカダージュの真似をして湖の中に入っていき……湖の水を飲みだした。
その中に一人……マリンの知人がいた。
「デンゼル……」
心配そうにマリンが、少年の名前を口にする。だがテンゼルと呼ばれた少年には、マリンの声が届いていないようだった。
「デンゼル!!」
マリンの叫びは意味を成さずに、デンゼルは水を飲む。すると、瞳の模様がカダージュたちと同じ模様になっていた……
そんな子供たちの光景に、カダージュはクスリと笑みを浮かべていた。
「母さん見て……こんなに兄弟が増えたんだ。これで母さんに会えるまで、僕は寂しくないよ」
空を見上げ、月を見つめながら呟くように言う。それから暫くすると、遠くからバイクの走る音がした。
「誰……?」
「兄さんじゃないかな。確か兄さんもバイク持っていたし……」
ザパンッと音を立てて、湖から上がってきたカダージュが答える。
「どうする? カダージュ……」
「迎え撃つのか?」
少しワクワクしながらロッズが言う。
「そうだね。こっちは人質――いや、仲間がいるんだ……」
不敵な笑みを浮かべ、カダージュたちは子供達を連れて森の中へと入って行く。
「アズールはここで待っていてくれ」
「え!? また、どうして……!」
「君が大切だから……とだけ言っておこうか」
「カダージュ……」
また、同じことの繰り返しだ。もう、嫌だと心の中では叫んでいるのだけれど……
それを言葉にするのが、怖いのだ。何を言われるのか、分からないから……
少しうつむいたアズールは、力強く頷いた。
「ちゃんと帰ってきてね! 約束だよ」
「ああ、約束だ」
お互い笑いあうと、カダージュはヤズー・ロッズ・子供達を連れて行ってしまった。
「待ってるだけってのも、心細いし……寂しいんだけどね…」
戦闘力だって、カダージュたちと並ぶくらいの実力がある。愛用の武器だって、毎日手入れしているから壊れる心配もない。
なのに、いざ誰かと戦う時になるといつもこうだ。
いや……違う。兄さんや姉さんと遭遇するようになってから、自分は戦うことが少なくなったのでは?
アズールは、湖をのぞき見るように座っりながらそう思った。
「あ、れ……?」
すると、急にめまいが起こりその場に倒れるようにして眠ってしまった。