03
「薪って、どれくらい集めればいいんだろうね……」
「持ちきれるくらいで良いだろう」
「うーん、それもそうか」
忘らるる都に生えているたくさんの木。意外にもたくさん枝が落ちていて、二人はかき集めながら話していた。
薪を拾いながら、アズールはサトミの行動に疑問を持つ。敵同士だというのに、何故あんな警戒もなく……友達のように慣れ親しんでいるのだろうか?
そんなサトミの行動に驚きながらも一緒に支度を始めるカダージュたちもどうかしている……別に嫌ではないから、気にしないでおこうか……
「さて、そろそろ戻ろう。姉さんたちが待ってるよ」
「ああ」
片手で抱きかかえるように、薪を持ってアズールはロッズの前を歩く。
(さっきのカダージュ、すっごい不機嫌そうだったからな……今夜一緒にいてあげようかな……)
ム〜とそう思いながら歩くアズールにロッズが声をかける。
「考え事してるなよ、躓いて転ぶぞ」
「え? あ……」
言っているそばから、アズールは木の幹に足をひっかける。
「おいおい……」
呆れたロッズは、走ってアズールを支えた。
「あ、ありがとう! 助かった〜」
ロッズの手を支えに、アズールが立とうとした時……ロッズが支えていた腕に力を込めた。
「ちょっと……ロッズ…」
結果、アズールはロッズに抱きしめられてしまった。
そんな二人を、冷たい風が通り過ぎる……
(な、な、な、何でぇぇぇ〜〜!?)
真っ赤になりながら混乱するアズールは、ドタバタと動くのだが 全然放してもらえない。
「ねえ、ロッズ……早く行かないと心配される、よ……?」
「ん……そうだな。行くか」
ようやく開放してもらい、アズールはそそくさと先へと進む。
「び、ビックリした……」
未だに真っ赤になっている頬に手を添えて、ロッズに気付かれないように先へと進む。
そんな彼女の様子に気付かずに、ロッズはアズールの後を追う。
****
「遅くなってごめん、薪持ってきたよ」
パタパタと走りながら声をかけたアズール。
目の前には、暇つぶしをしているサトミたちの姿があった。材料も道具も既に準備されている。
カダージュは、バイクの荷台でゴソゴソと何かをしまっているようだ。
アズールの後ろでは、頭をかいて歩いてくるロッズがいる。
「おっかえり〜。遅くなるのも無理ないよな〜。つまずいてこけそうになったアズールちゃんをロッズが支えたけれど……思わずロッズがアズールちゃんを抱きしめちゃったんだよな〜。遅くはなるわな〜」
ニヤニヤしながら、バイクによりかかっているサトミがポロッと言った。目を点にして、アズールとロッズは固まってしまう。
森の中には、二人だけしかいなかった。なのに、どうしてこんなに事細かに彼女は知っているのだろう…
カランッと、足もとに薪が落ちていった。
「あの……何で……」
「風は、私の体の一部なの。それが、遠くにいる人たちの話し声から動作まで伝わってくるからさ、ね?」
「いや、"ね?"って言われても……」
アズールの問いに、簡単にサトミは説明する。
「そんな能力を……」
「そ、持ってるのさ〜」
その横で、カダージュがアズールとロッズの間に入った。
「ロッズ、それ本当?」
「え、あ……いや、その……」
口をもごもごさせるロッズ。誤魔化そうかどうか、迷っているようだ…
「アズールは僕のモノだって……前行ったよね?」
「えッッ!!??」
カダージュの爆弾発言に、アズールは持っていた薪を更に落としてしまう。
そして、顔を真っ赤にさせてカダージュの顔を見た。
「さっきまでの行動さ、ずっと我慢してたの気がつかなったの? 僕、かなり怒っていたんだけど……?」
ジリジリと近づいてくるカダージュに、ロッズは薪を落としてゆっくりと後ずさりする。
「いや、あれは事故で……」
「へー 事故ね〜。そうだったとしても、これ以上我慢はできない……堪忍袋の緒が切れた、とでも言っておこうか」
「なッ」
―ガキィィィン!!!
カダージュとロッズの武器がぶつかる音が響く。
「やめてよ! 二人とも!!」
だが、アズールの叫び声は二人の耳には届いていなかった。
激怒したカダージュの攻撃を、必死に避けては防いでいるロッズ。
カダージュは、何に怒っているというのだろう…アズールはよく分からないでいた。
「やめんかお前らッ!!!」
ものすごい速さで走ってきたサトミが、二人の間に入ってきた。
右手にロッズの手、左手でカダージュの刀を掴む。左手からは、じんわりと血が流れているようだ。
「ケンカの前に飯だ!」
呆れた声で二人に話すサトミ。くだらないと、言いたげな声だった。
「姉さん! 手から血が……!」
「こんなの、どーってことねぇよ! ほら、行くぞ!」
バシバシと二人の背をたたいて、サトミはアズール達の元へと向かう。
「おーい、連れてきたぜ〜」
「お騒がせしました……姉さん、火はどうすれば良いの?」
「それはこっちに任せろ」
そして、ヤズーやロッズたちを呼んで用意したナベの下を見る。
「カダージュ、まだ怒ってる……?」
「大分落ち着いた。でも―――」
にやりと笑ったカダージュは、アズールを自分の方へと引き寄せた。
「ッ!!?」
そして、触れるだけの口付けをした。一瞬硬直したアズールも、しばらくすると顔を真っ赤にした。
「これで完全に落ち着いたかな…?」
「もう……」
惚れた弱みに付け込まれたような感じになりながらも、アズールはサトミたちの元へと行った。
もう少しで、夕飯が出来上がるようだ。