04
「やっぱり、和解は難しいのかな……」
木の高い場所で、サトミは寂しそうに呟いた。
音からして、子供達が湖に入って水を飲んでいるようだ。
(これ以上長居はできない……もっと色々、話しておくべきだったな)
サトミは立ち上がり、湖から離れていく。
「母さん見て……こんなに兄弟が増えたんだ。これで母さんに会えるまで、僕は寂しくないよ」
風に乗って、カダージュのそんな独り言が聞こえて来た。
それから暫くすると、遠くない場所から爆発音が聞こえてきた。
「クラウドが着たのか……それで闘っている……あ」
ドシーンという音と同時に、サトミは手を握り締めた。
「ロッズ、今度会ったら絞め殺してやる……」
イライラさせながら言っているところを見ると、どうやらロッズが森の木を倒してしまったようだ。
森は壊すなよ、と念押ししてたのに……と、小さく握り拳を振るわせる。
「と、とりあえず早いところ、ここから離れて……」
木々へと渡っていると、サトミは足を止めた。
『オコラナイデアゲテ……』
ザワザワと木たちのコトバが聞こえてきたからだ。
『彼ラハ寂シイダケナンダ……』
「寂しい?」
『彼ラハ"母親"ヲ探シニキタダケ』
さわさわと騒ぎだす森達の声に、サトミはハッキリと言う。たとえ目的があるとはいえ、やっていい事と悪いことくらいある。
「だが、あいつらの母親はこの星の災厄・ジェノバだ」
悔しそうに、サトミは森の木々にそう話す。もし……彼らの母親が、二年前の事件に関わるような存在でなければ……
こういう思いはしなかっただろう、とさえ思ってしまう。
『母親ニ会イタイガ為ニキタノ……』
『アナタナラコノ気持チ、分カルハズダヨ……』
「……ああ、痛いくらいにな」
―肉親が生きているのなら、どんな方法を使ってでも会いたい。
『母さん見て……こんなに兄弟が増えたんだ。これで母さんに会えるまで、僕は寂しくないよ』
哀しくて、怖いと言葉が伝わってきたことを思い出す。
そしてその気持ちは、早い時期に親を失ったサトミは良く分かっている気持ちだ。
「――誰だ」
男の言葉に、木々たちはザワザワと風に靡いて黙り込んでしまった。
「その声……ヴィンセントか?」
「―――サトミか」
「おう! 久しぶりだな」
声がした方へと降り立ったサトミに、タタタッと誰かが駆け寄ってきた。
「サトミお姉ちゃん!」
「マリン! 無事で何よりだ。お、クラウドもな……」
ニカッと笑って言うサトミに、クラウドは安心の溜め息を漏らす。
「んで、これからどうしようとしてたんだ?」
「一度ミッドガルに戻ろうとしてた。マリンを店に送りに……」
「おう。……なんか、吹っ切れたみたいだな」
顔は確認することはできない。でも、耳に入ってくるクラウドの声を聞いて、何となく感じたことがあるのだろう。
サトミが満足そうに頷いている様子を見て、クラウドは首を傾げた。
「? 何のことだ」
「別に〜」
他愛のない会話をしながら、クラウド・マリン・サトミはヴィンセントと別れてミッドガルの方へと向かった。
****
カダージュたちとの戦いで、湖に落としたクラウドの携帯。
留守録には、たくさんの人たちからのメッセージが入っていた。
『私です、リーブです。お仕事はどうですか? チラシ見ましたけどあんなので商売になるんですか? クラウドさんらしいですけどね……良ければお手伝いしたいので、また連絡ください』
『クラウド……ヒーリンにいるレノから電話があったよ。仕事の依頼だって』
『ちーっす! サトミだけど、分かるよな? 最近星痕のことで色々情報収集してるんだって? こんな私でよければ手ぇ貸すからな! いつでも連絡入れろよ〜!』
『久しぶり〜ユフィちゃんだよ! あのさ、ウータイから子供達がいなくなっちゃったんだけどさ、何か知らない?』
『よう! バレッドだ! 俺はやったぞ! 新しい油田だ! ゆーでーんーー!! スゲーでかいヤツだ! でさ目途ができたんで、もうすぐマリンに会いに行くからな! 伝えとけよ! じゃあな!』
『――何か情報持ってたら教えて! お願いだよ〜!』
『――なんだか様子が変だったけど、気をつけてね……』
湖の奥深くに落ちた携帯に、最後の留守録が流れようとする。
だがそれは、携帯の電池が切れたせいで聞けなくなってしまった。
―悪く思ったこと、一度もないよ。
来てくれたでしょ? それだけで十分……―何処かでエアリスのそんな言葉が聞こえてきた……
だが、その言葉を聞いた人は……誰もいない……