02

 

それが、気配を感じ取れなかった新手の持つ武器だと気付くのに……それほど時間はかからなかった。

自分としたことが、完全に彼の気配を察することが出来なかった。


「カダージュッ!」


ヤズーと呼ばれた男は、サトミの後ろに立つ男の名を口にする。


「テメェ……」

「今度はグリーンか……姉さんの髪の色って、見る度に変わるね」


サトミの髪を優しく撫でながら、カダージュは言う。

少し間を空けて、サトミは武器をしまった。


「? 姉さん……?」

「2対1で勝てる気しないからな、それに……あまり動きたくないんだ」


腹減ってるしな、とサトミは心の中で呟く。

ヒーリンから出てから、サトミは一食も口にしていないのだ。


「……良い判断だよ。姉さん」


首に突きつけられた武器を下ろしてもらい、サトミはホッと胸を撫で下ろした。


「で、人質に逃げられたみたいだね」

「ああ、でも姉さんが来てくれたから……」

「結果オーライ、だね」

「………は……?」


淡々と話す二人の会話を聞き、嫌な汗が流れて行くのを感じた。

この場から離れないと、どうやらとんでもない事に巻き込まれかねない……


「おい、まさか……私が彼らの代わりに人質になれと?」

「よく分かってるじゃん! 姉さん」

「はぁ!!?」


カダージュの明るい言葉に、サトミはガックリと肩を落とした。



―こんな展開になるんだったら、忘らるる都なんかに向かうんじゃなかった……!!



そうサトミは、心の中で叫んだのだった。





****





「サトミお姉ちゃん!!」


バイクを押しながら、二人に監視されて……サトミは忘らるる都の泉の畔に着いた。

少し離れた場所から、自分の名を呼びながら走ってくる少女の声が聞こえる。

その声を聞き、サトミはパァァァァと明るくなった。


「マリンじゃないか〜〜〜〜!!」


お互いに抱きついてハート乱舞をぶちまける二人。

その様子を、周りにいた四人は呆れて見ていたとか……


「マリンも捕まっちゃったのか〜、怪我してないか?」

「大丈夫だよ!」


マリンがにっこりと答えた時、くぅ……と何かが鳴る音が聞こえた。


「マリン?」

「えへ、お腹すいちゃった」


お腹を押さえて、マリンは照れながら言った。連れ去られてきたのだ、マリンの緊張が無くなった証拠だろう。

目は見えないが、時刻はもう夜……のはず。夕食をまだ済ましていないサトミも、お腹を押さえた。

そして―――……彼女はとんでもない判断をしたのだ。



「よし、夕食作って食べよう! 6人でな」



「「「「え!?」」」」


サトミの後ろに立つカダージュたちと、マリンの後ろにいるアズールたちが声を揃えた。

当たり前だ。ここは敵が拠点としている場所……いつ襲われてもおかしくないのだ。

マリンを人質に取られている状況は変わらない。なのに何故そのような結論に達する事が出来るのか。カダージュ達は不思議で仕方がないようだ。


「腹が減ってはなんとやら! あんた達も夕食済ませてねぇだろ?」


返事は……ない。サトミはニヤリと笑った。


「なんだなんだ? 返事がないって事は、図星か?」

「わ、悪かったな!」


アズールの隣に立つ男が、子供のようにそう叫ぶ。


「アハハハ! 素直で良いぜ〜。さて、カダージュと……ヤズーだったな。バイクに積んである荷物を運んでもらおうか。アズールちゃんと……」


思わず首を傾げてしまうサトミ。

カダージュ一味は全部で四人。そのうち三人の名前は聞いたことがあって覚えていたが、最後の一人の名前が分からないのだ。


「ロッズって言います。姉さん」

「そうか。ロッズ、だな。じゃ……アズールちゃんとロッズは薪を集めてもらおうか」

「あ、えっと……わ、分かりました。行こうか、ロッズ」

「おう」


アズールの言葉に救われたサトミは、「ありがと」と小さく呟く。


「ねえ、何を作るの?」


サトミの服のすそを掴んでいるマリンが問う。

 



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