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「折角の広い建物、一階部分の広いスペースを使わないのはもったいない、ですよね」
先日、そうポツリと呟いたうおちゃんの言葉をきっかけに、私たちが住居している何処にでもある普通の住屋からたった一日で茶売り場へと姿を変えた。
材料や必要な機材は、ここに来る際貰った通信機を使って白蘭に連絡を入れたら、あっと言う間に転送してくれたことに驚いたな。
この手首についている機械……転送装置も仕込まれているのか。手を込んだ高性能機械だな、と感心する。それに、こちらと向こうとじゃ進む時間の流れが違うのかな?
驚いて何も言えないカゲッちゃん達には、後で白蘭のことを紹介する事にして……
話し合いの結果、茶屋は立海メンバーを中心経営していくことになった。ちなみに店長は精市君だ。言わずもがな、だと思うけど……
京都の情報収集兼巡回は私たち比嘉が、跡部君やりっちゃんを始めとした氷帝メンバーは買い出しを中心に行動をする事になった。
巡回をすると言っても、新選組のメンバーも街の巡察をしているからね。彼らと鉢合わせしないように行動を取ったのがほとんどだ。
りっちゃんたちは、買い出しをしている中また裏通りで雪村さんたちをリンチする隊士たちを見つけては声をかけていると若君が話してくれた。
赤也君はと言うと、仕事を放って屯所にいる新選組の隊士・沖田総司と一緒になって子供と遊ぶ事が多くなったらしい。
いつの間に沖田さんなんて大者と仲良くなったんだろう……赤也君は。
店の運営も安定し、氷帝メンバーが新選組のメンバーに顔を憶えられたある日の事……文久四年6月5日。
この日、私は初めて彼らと対面する事になる。
05章:池田屋事件
「どう、かな……?」
「凄くカッコイイよ! 秋穂は何を着ても似合うな〜、羨ましい!」
「ハハハ、にふぇーでーびる」
池田屋事件当日。今は夕暮れの時間帯だ。
私は動きやすさを重視し、赤い袴に手を通していた。赤にした理由は、仕事服が赤いから。ただ、それだけだ。
今日の買い出しで買ってきた代物で、しかも男モノだったから少し心配してたけど、選んでくれたのがりっちゃんだから全然問題なかった。
「おい、本気で俺達と共に来る気か?」
「当たり前やっし!」
庭に立っているカゲッちゃんたちが、そう声をかけてきた。
そうそう、今回はカゲッちゃん達も仕事の都合上池田屋に潜伏するのだそうだ。
「それに、私にはやらなきゃいけない事があるの!」
「フン、歴史の改変など……そう易々とできるものではないぞ?」
「それでも、やらなければならぬ時があるのだよ」
キラリと目元を輝かせると、カゲッちゃんはどうでも良さそうな眼差しを向けてきた。それ、酷くないか!?
「そ、それじゃりっちゃん。行ってくるね! 蔵人兄さんとマリーアさんには、当初の予定通りに動いてもらうように伝えといて」
「うん!」
当初の予定……それは、今回の池田屋事件を新選組の手柄になるように誘導する事。
蔵人兄さんはいつもの仕事服で動いてもらうから、周りに気付かれる事無く動いてくれる。
マリーアさんは持ち前の魔術で、なんとかしてくれると思ってる! あの人の使う魔術……特に呪術は、強力なものばかりだからね。
「あれ? もう行く時間かい?」
廊下を歩いていると、丁度店を閉め終えたであろう立海メンバーと鉢合わせた。
私に声をかけてくれたのは精市君だ。
「うん。明日の早朝にならないと帰れないと思うから、跡部君たちに伝えておいてくれる?」
「いいだろう。怪我だけはしてくるんじゃないぞ」
「分かってますって!」
立海メンバーから渇を貰い、カゲッちゃんとアマやんと一緒に外へと出る。
外には、壁に背を預けて立っている永四朗がいた。彼も私に気付いてくれたのか、顔をこっちに向けながら駆け寄ってくる。
「そろそろですか?」
「うん。多分明け方にならなきゃ帰れないかも……」
「ええ、分かってますよ。俺は、秋穂が無事に帰って来さえすれば良いのですから……」
「そうか……分かった」
コツン、と拳をぶつけ合う。私はそう簡単に倒されたりはしない。
それは永四朗も分かっている事だけど、心配せずにはいられないのだろう。まったく、心配性だなー。
「じゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
先へと歩く三人を見失わないように、後ろを向いて手を振ってから夕暮れの道を走った。
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