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*Side 鈴*

今日から住む事になった大きな一軒家の前で、私は秋穂達と別れた。

秋穂たちは情報収集へ、私達は食料調達をしにそれぞれ別行動を取る事になっているからだ。ちなみに、このセカイのお金は秋穂から貰った。彼女曰く……


「あ、なんか白蘭から貰った。これだけあれば当座問題なく過ごせるだろうってさ」


ジャラジャラとお金がぶつかる音が響く巾着を手に、私は景吾の横に並んで皆と共に街へとくりだす。

江戸時代の街並みと言うのは、教科書や専門書で見た通りで、たくさんの人達でにぎわっていた。現代で言うスーパーがない代わりに、たくさんの市場が私達を歓迎してくれているように見える。


「さて、何から買うんだ?」


人ごみに慣れていないのか、景吾が少しだけ物珍しそうに辺りを見渡して問うてくる。


「そうだね……やっぱりお米は必須でしょ? 野菜と肉と、とにかく必要最低限の食材は集めたいかも」

「なら、俺たちも二手に分かれるって言うのはどうだろう? その方が効率が良さそうだ」

「それ賛成!」


真田さんの意見を採用し、私達は二手に分かれる事になった。真田さんや赤也君達には肉類を、私や景吾たちは野菜類を買う事に。そして大体必要な食材が揃い次第、近くの茶屋に待ち合わせる……ということに決定した。


「じゃ、また後で!」


そう声をかけると、真田さんに引きずられるようにして赤也君が嫌そうな表情になりながら歩いていった。その後ろを面白そうに蔵人さんが追いかける。

私と景吾、凛君と陽菜ちゃんは一緒に八百屋さんへと向かう事になった。




03章:目撃と第二の依頼人




別れてから十数分後、茶屋に無事合流した。

蔵人さんの手には大量の肉が握られている。赤也君は、何度か逃走しそうになって真田さんが怒鳴りつけている姿が見えた。


「すみません、遅くなりました」

「ううん、大丈夫だよ」


遅くなった大体の理由は、蔵人さんの背後を見れば理解できるから……


「よし、これで全部か?」

「一応ね」

「やっぱり買ったのか……ソレ」


ソレ、と言いながら凛君が指さしているのは……緑に輝く苦瓜。


「勿論! 秋穂と木手さんが欲しがると思ったからさ」

「ウゲェ……」


まあ、彼が嫌そうにしているのも無理はない。コレは私がさっき見つけた苦瓜―ゴーヤ―だから。未だにゴーヤ片手に木手君に脅されている事に驚いたのは内緒だ。良い大人なんだからさ、ゴーヤくらい慣れなってば……


「これで全部なんでしょ? 早く運んじゃいましょうよ!」


イデデデ、と耳をさすりながら赤也君が元気良く声を上げる。彼の言葉に同意し、荷物を持って立ち上がった時だ……


「お前らがいるから、蓮華が傷付くんだ……土方さんも、なんでこんな奴を屯所に入れたんだか……」

「わ、私達……何もしてません!! 信じてください!!」


周りが騒がしくて、笑い声に紛れそうな小さな声だったが私達の耳にはしっかり入ってきた。とても聞き慣れた言葉のフレーズに、私だけじゃなく景吾たちも顔をしかめた。


「景吾……」

「ああ、すぐ近くから聞こえるな……」

「行くっきゃないっスよね」

「ああ」


それぞれ頷き合い、声がした方へと向かう。あ、ちなみに買った食材はと言うと……


「私が丁重に『運んで』差し上げますよ。終わり次第、君たちと合流しますので」


……というわけで、蔵人さんに任せる事になりました。


「とにかく、行こう。皆」

「おう!」


蔵人さんと別れ、声がした方向へと進んで行くと路地裏で数人の気配を感じた。

物陰から様子を伺おうと顔を出す。私達の目線の先には、奥で男子の袴を着ている女子二人と数人の大人たちが仁王立ちになって四方を塞いでいた。

浅葱色の半被を着ているということは……


「アイツ等、新選組か?」

「間違いねぇだろう。あいつら一体こんな所でなにやってんだ? それに……」


真田さんの問いに敬語は答えるが、途中で言葉を閉ざした。その理由は、新選組に守られるように立っている女の子……彼女が、黒い笑みを浮かべていたからだ。


「これ、どう見ても仕組まれた"苛め"ッスよね?」

「ああ……それも、我らが良く目にしている構図だ」

「止めないと……!」

「待て鈴、今出たら怪しまれるぞ」


ガシッと肩を掴まれて身動きを封じられる。景吾の言うことも分かるけど、今止めないでいつ止めるのさ……!


「でも……!」

「あれ? 君たち、こんな所で何してるの?」


飄々とした声が背後から聞こえてきた。あ、れ? 今の声って、赤也君??

目をパチクリさせながらすぐ横にいる赤也君を見る。私の目線に気付いた様で、彼はブンブンと顔を横に振っていた。

どうやら声を発したのは彼ではないようだ。


「この僕を無視するなんて、良い度胸じゃない。見慣れない人達だけど、こんなところで何しているの?」

「え、えっとですね……」


慌てながら陽菜ちゃんが言葉を紡ごうとしている横でゆっくりと振り向く。浅葱色の法被を着ているということは、彼も新選組の一人ってことかな……?


「……あ、そうだ。折角出逢ったんだし、僕に協力してくれない?」

「はぁ?」


疑問符を大量に飛ばしている赤也君に、目の前にいる彼はニーッコリと綺麗な笑顔を向けていた。

何か良い策でも考えているのだろうか?


 


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