01


タイムスリップ当日。私達はミルフィオーレの一室にやってきた。

そこには複数の機械が置いてあり、点検をしているであろう正一君とスパナさんが辺りを行き来している。


「おお! カッコイイ!」


過去の世界へタイムスリップする際に最低限持って行かなきゃいけない道具を見直している時に聞こえた凛の声。振り向くと、彼は紫の法被(はっぴ)を手にとって羽織ろうとしていた。


「なあなあ! どうだ……?」

「凄く似合うよ……カッコイイ」

「じゅんにか!?」

「うん!」


紫の半被の背には白い字で『嘉』の一文字が印刷されており、少しだけ頬を染めるうおちゃんに凛が抱きついた。

この二人、夫婦というより恋人のような雰囲気があるな……


「秋穂チャンたちの学校って、比嘉だったんでしょ? ユニフォームも紫だったみたいだし、こっちの想像で勝手に制作しちゃった。良かったら使ってよ」


何時の間に現れたのか、すぐ横から聞こえてきた白蘭の声にピクリと反応する。


「ですが……」

「僕がやりたくてやったことなんだから。受け取ってくれなきゃ困るんだけどなぁ〜」


しかも、彼の後ろには元比嘉メンバーである私達の他に元立海の精市君たちを筆頭とした立海のロゴがプリントされた法被。そして跡部君を筆頭とした元氷帝のイメージカラーである白地に青い文字の『帝』が背中にプリントされている法被まで用意されている。

チラッと生地の方を良く見ると、内側はまるで血のように真っ赤に染まっている。これには流石の私もビックリした。


「ちょ、白蘭。この法被……裏側どうして赤いんですか……?」

「あー、これはリバーシブルになってるんだよ。裏に反してみれば分かるんだけど……」


そう言いながら、白蘭は法被の一枚を裏返して見せる。そこから出てきたモノに……私は目を見開いた。


「ほう? 我々の会社のロゴ、ですか」

「そ♪ 氷帝にも立海にも、同じものがプリントアウトされてるよ。こっちも有効活用してね」


永四朗の言葉に、白蘭は嬉しそうに頷いた。赤い生地に堂々と大きく白い鳥がプリントアウトされている法被。これが何処で活用されるかは分からないけれど、タイムスリップした先で違和感なく使える代物であることは間違いないようだ。

だけど、これを人数分作ってくれたのだろう……他にも開封されていない段ボールがいくつかあるのが見て取れる。


「流石に人数分だと、結構お金がかかったかと思いますが……」

「へ? 別に気にしなくて良いよ。あの時のお礼だと思って、受け取ってよ」


あの時、それは先日の苛め騒動の事を指しているのだろう。滞在場所の提供だけで十分だって話したはずなのに……

そんなことをグルグルと考えていると、少し離れた場所から貞治達の声が聞こえてきた。


「データが揃い次第、秋穂達と合流しようと思う」

「待っていてくれ。必ず、力になれるようなデータを手にしてくるからな」


貞治に続いて柳君が言う言葉に、私は「頼んだ!」と声をかける。はじめ君も続くように頷いてくれたから、この三人の集める"情報"には大いに期待して大丈夫だろう。


「じゃ、そっちは頼んだからね」

「ええ。どんな形であれ、問題を解決させましょう」


その後もいくつか言葉を交わし、私は永四朗たちが待つタイムスリップ用の装置の中に入った。


「それでは、行ってくるね!」

「なにか困ったことや、送ってほしい物資があったら連絡入れてね、事前に渡したその装置でさ」

「了解!」


装置、というのは今私が腕に付けている特殊な機械の事を指している。見た目は何処にでも置いてあるごく普通の腕輪。

だけど、スイッチを押すだけで次元に関係なくミルフィオーレと通信が取れるし、物資の運搬も可能にしてくれるという優れ物。私以外に、永四朗・跡部君・精市君にもそれぞれ同じ腕輪が装着されている。


「Bloody Bird Companyの皆、大がかりな作業になると思うけど、成し遂げようね!」


私の言葉に、皆はそれぞれ頷いてくれたり「おう!」と声を挙げてくれたり……色んな反応を示してくれた。

依頼を達成させるのが第一条件だけど、息抜きをするっていうのも忘れちゃいけない。


「それじゃ、いくよー!」


白蘭を始めとしたミルフィオーレのメンバーに見送られる中、私達は装置の中で瞳を閉ざす。そして、辺り一面が真っ白に光り出すのだった……




二章:再会(?)




「――無事に移動できたようですね」


蔵人兄さんの声を合図に、私達はゆっくりと瞳を開く。

私達が立っている場所は、何処かの空き家みたいだ。空き家にしてはほとんど埃が付いておらず、つい先日まで誰かが使っていたような雰囲気が残っていた。上へ行ける階段がある所を見ると、ここは二階建ての一軒家かもしれない。


「荷物運びましょうか?」

「ええ、お願い致します」

「真田、この家の地理を確認しよう。仁王も良かったら一緒に来てくれ」

「ああ、分かった」

「ピヨッ」

(ここは彼らに任せた方が良いかもね)


それぞれが動き始めた頃を見計らい、私は外へと出た。

暗い夜空が視界一面に広がり、すぐ傍から川の流れる音が聞こえる。ここは……田舎なのかな? もしかしたら、都会の可能性もありそう。

あの白蘭が、私達を何処に飛ばしたのか分からない以上……あまり動き回らない方が賢明かもしれない。心地よい風が吹き、私の身に付けているロングコートがパタパタとはためいている。


「秋穂、跡部君が部屋割をして一眠りをしようと話してますよ」

「ん、わかった」


私が部屋にいないのに気付いてくれた永四朗の声に、私はそう返事を返して中に入ろうとする。

だがその時――


「――ッ!」

「? どうかしましたか? 秋穂……」

「シッ、静かに……」


建物から物音が消え、外にいる私と永四朗は動きを止めて辺りに耳をすませる。

聞こえてくるのは川のせせらぎ……そして、こちらに近づいてくる足音。そう遠くない場所から感じる気配……数からして三つ。


「……三人、ですか」

「うん、だけど……この気配は――」

 


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