03
「では、こういうのはどうですか?」
千華さんの声に、秋穂はピタッと言い合いを止めて顔を動かした。
「あれ? こんな人いたっけ?」とでも言いたそうな表情を作っているが、彼女と入れ違いにやってきたから知らないようだ。
「私は、詳しいことは存じ上げません。ですが、この現状をなんとかしたいという気持ちは双方共に同じのはず。ならば、暫くの間この屯所にご厄介になろうと思います」
「ご厄介……?」
彼女の出した提案……それは、状況も何も知らない第三者として現状の回復と解決を目的としてこの屯所に一時的に住まうということだ。更に話を聞くと、どうやら千華さんと彼女の後ろに居る風間千景は、未来からやってきた灯さんたちの"代理人"としてこの時代にやってきたらしい。
何故代理としてなのか……それは、もう少しこの場が落ち着いたときにでも聞くことにしましょうか。
「……うむ、良かろう! 俺が許可する! ココの屯所に、暫しの間住んでくれないだろうか」
「おい近藤さん……!」
「トシ、こういう"外部からの目"も大事なことだ。俺は、彼女たちに賭けるとしよう」
暫し悩んだ末、この組織の頭である近藤という人が決断を下す。
中には反論する人もいるようだが、トップの決めたことは絶対のようで誰も反論はしなかった。やれやれ、大事にならなくて良かった……
「話がまとまったようだな」
すると、秋穂と刃を交えていた千景さんが戻ってきた。
秋穂はというと、天野千華さんと話に花を咲かせているようだ。暫くこちらに戻っては来れないだろう。
「で、お前たちは今後どうするつもりだ?」
「そうですね……私は、景吾と一緒に状況報告をしに戻ろうと思います。この場は、秋穂と木手君でなんとかしてくれると思いますから」
「そうしてもらわねば困る。で……」
千景さんは、スッと瞳を細めて過去の自分へと視線を動かした。
「お前は何もしないで、ただただ話を聞いて退散でもしようとしてるのではないだろうな?」
「なに……?」
「貴様はここに残れ。理由は言わなくても分かる筈だ、もう――定めたのだろう?」
「ッ……」
二人だけにしか伝わらないような会話に、周囲に居る誰もが首をかしげる。
彼の言う"定めた"というのは、恐らくそう遠くならない未来に家族として招かれるであろう灯さんのことを指しているに違いない。
彼らの"未来"を知っているからこそ、そう思わずにはいられないのだ。
「千姫さんは……どうされますか?」
「そうね……私は頻繁に来れないから、代わりに君菊を向かわせるわ。時々顔を出すくらいの頻度になるけどね」
「はい。顔出す頻度が少なくなることを、願うばかりです」
お互いに頷く二人に、鈴さんも同様に頷いてから「おーい、秋穂」と声をかけた。
すると、話に没頭しているらしい彼女は「まだ結婚してないのかよ!!」と叫んでいるようだが、一体どんな話をしていたのやら……
「なるほどね〜。ほんじゃ、この二人もここに滞在するって決まったみたいだし。それじゃあ新選組の皆さん、私と永四郎とカゲっちゃんコンビに千華ちゃんは、暫しご厄介になるんでゆたしく〜!」
ニカッと笑う秋穂に、俺は思い溜め息をついた。
敵と味方が分からないこの状況を、どう彼女は乗り切って行くのか……俺はどうサポートをしていけば良いのか……
(まあ、時の流れに従うことにしましょうか)
多くの反対の言葉を押し切りながら、「部屋とかどうしようかね〜」と話す彼女の後ろを眺めるのだった。
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