03


周りにいる人達に警戒されながら、私たちは屯所の奥にある居間へと通された。

そこにいたのは、総司さんや平助君を始めとした新選組の隊士たち八名と、千鶴ちゃんと灯さんを始めとした女性三名。

女性の一人は、まるで隊士たちに守られるように彼らの輪の中にはいっていた。

あまりにも見覚えのありすぎる光景に、私だけでなくりっちゃんや跡部君も小さく息を漏らしてしまう。


「お千ちゃん、どうしてここに……?」

「私ね、アナタ達を助けに来たの」


灯さんの言葉に、千姫さんは真っ直ぐにそう答えた。

小さく驚いたような声が周りから聞こえる中、彼女の言葉に一場の泥いているのは灯さんと同じ鬼・千鶴ちゃんだ。


「えっと、それってどういう意味?」

「言葉の通りよ。私や君菊は、この新選組内で起きている"虐め"の全貌と真実を知っているの」


まあ、千姫さんが同胞を心配して調べたからという事もあるだろうけど……京都に住んでいる人間誰もが感づいていることだろう。

誰が悪く、誰が正しいのか。

新選組と関わりを持っていない人達でも、なんとなく『気配』を感じて変に距離を置かれがちになっている事を、彼らは知らないようだ。


「ここにいたら、いくら鬼の身体であっても耐えるのに限度がある。身体は耐えられても、心が限界値を越えてしまうわ!」

「それでも……ッ!」


彼女の口から出た"鬼"ということばに、新選組側は動揺の声を漏らし始めた。

もしや、灯さん以外の人達は"鬼"について知らないのかもしれないね。


「んー、千姫さん。とりあえず、その"鬼"についての話をした方がいいかもしれませんよ?」

「そうね……じゃあ、順を追って説明します」


一息ついてから、千姫さんは真剣な眼差しを向けながら……説明を始めた。


「私の本来の名前は、彼女が話した通り"千姫"と申します」

「そして私は、千姫様に代々仕えている忍びの家の者でございます」


千姫さんに続くように、君菊さんも口を開いた。


「この国には、古来から鬼が存在していました。幕府や諸藩の上位の立場の者は知っていた事です。ほとんどの鬼たちは、人々と関わらず、ただ静かに暮らすことを望んでいました。ですが……」


千姫さんは、哀しく瞳を閉ざしていく。そして、言葉を続けていった。


「――鬼の強力な力に目を付けた時の権力者は、自分に力を貸すように求めました」

「鬼たちは……それを受け入れたんですか?」


千鶴ちゃんの問いに、千姫さんは首を振った。


「多くの者は拒みました。人間達の争いに、彼らの野心に、なぜ自分たちが加担しなければならないのかと」

「ま、当たり前の反応ですね」


ハーフフレームの眼鏡を持ちあげながら、永四朗はそう言葉を漏らした。


「ですが、そうして断った場合、圧倒的な兵力が押し寄せて私たち鬼の同胞が住んでいる集落が滅ぼされることさえあったのです」

「ひどい……」

「鬼の一族は、次第に各地に散り散りになり、隠れて暮らすようになりました。人との交わりが進んだ今では、血筋の良い鬼の一族はそう多くはありません」


千姫さんの話を聞いて、ようやく私はカゲッちゃんの嫁探しをする根本的な部分を知った。

純潔の女鬼を見つければ、良い跡取りを授かることができるから……


「今、西国で最も大きい血筋の良い鬼の家と言えば、この場にいる風間家の当主・風間千景。そして東側で最も大きな家は――雪村家」


彼女の言葉に目を見開いて驚いたのは、千鶴ちゃんだけでなく男性陣に護られるように座っている彼女もだった。

無理もない、千姫さんの話す混血の鬼という情報が正しければ、純潔である鬼が目の前にいる事に、驚いてもおかしくないだろうから。


「雪村家は滅んだと聞いていましたが……」

「ちょ、待ってくれよ! じゃああれか、千鶴はその鬼だって言いたいのかよ!」


藤堂君の驚く声に、千姫さんは「そうです」と短く答えた。


「次に、北側で最も大きな鬼の一族は――桜花家。つまり、統領である灯さんのことを指しています」

「って灯もかよッ!!」

「うん、ゴメンね……今まで話さなくて」


申し訳なさそうに話す灯さんに、ずっと話を聞いていた私はと言うと……

 


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